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第2話 一人暮らし初心者故、お隣さんとの触れ合いに戸惑う
「あ、僕は、河瀬貴晴(かわせたかはる)です。よろしくお願いします」とサラリとお隣のお兄さんは言った。
「よ、よろしくお願いします。あっ、じゃあ、あの、そう言う事で……」
自己紹介されても何だか気まずいし、挨拶を済ませた俺は早々に自分の部屋に帰ろうとした、が、しかし……。
「あっ、ちょっと待って!」
お兄さん……河瀬さんに引き止められた。
「何ですか?」
引き止められて挙動不審になっている俺を河瀬さんが上から下まで眺めている。
そんなに俺の事を見て、一体何だと言うのか。
「あの」
河瀬さんが眉間に皺を寄せながら話しかけて来た。
「何です?」
俺の眉間にも自然と皺が寄る。
「一ノ瀬さんって、男性ですか?」
その台詞に俺はビックリする。
「え、男ですけど」
当然の事を俺は答える。
「そうですか。すみません。可愛い顔してて身長も低かったので、どっちか分からなくって」
「ええーっ?」
そんな事言われたのは生まれて初めてだ。
身長が低いのは自覚があるが、可愛い顔だなんて言われた事は無い。
この人、綺麗な人だけど、頭の中はどうかしてるんじゃないか?
「失礼な事言ってすみません。怒りました?」
河瀬さんがしょんぼりした顔で俺を見ている。
美形のお兄さんにそんな顔をされたら怒っていても許してしまう。
俺は美しいものには目が無いのだ。
「怒って無いですよ」
「良かった」
俺が怒っていないと言ったら河瀬さんはとても安心した様で、ほっと、息を漏らしている。
まぁ、悪い人ではない様である。
「あっ、あの、じゃあ、俺、引っ越しの片付けもまだ終わって無いんでそろそろ失礼します」
そう言って改めて、俺が部屋へ帰ろうとすると「待って!」と再び呼び止められた。
今度は何だと言うのか。
「何ですか?」
「あの、引っ越しの片付け、手伝おうか?」
「えっ?」
「迷惑?」
「いや、そんな、迷惑どころか、有り難いですけど、でも……」
有り難いが、俺は人見知りだ。
いくら美形とはいえ、今知り合ったばかりの人を部屋に上げる、だなんてハードルの高い事できる訳無い。
「あの、有り難いんですけど、その……」
俺が口ごもっていると、河瀬さんはまたしてもしょんぼりとした顔をして、「さっきの失礼のお詫びがしたくて。どうしても手伝いがしたいんです。ダメかな」と、目をうるうるさせて言って来た。
「うっ」
ダメだ、そんな顔をされるとどうも弱い。
「……分かりました。お願いします」
俺の口は、自然とそう言っていた。
俺は、河瀬さんと二人で自分の部屋のリビングダイニングにいた。
これから二人で部屋の片付けをするのだ。
「あの、じゃあ、よろしくお願いします」
俺が言うと、エプロン姿の河瀬さんは「任せて」と言って、気合入れ気味に段ボール箱のガムテープを剥がした。
俺は小さく、河瀬さんに気が付かれない様にため息を漏らした。
やっぱり、知らない人と二人きりは緊張する。
俺は、出来るだけ河瀬さんの方を見ない様に作業を進めた。
夢中で作業をする事数分。
突然目の前に、河瀬さんの美しい顔が現れた。
「うわっ!」
ビックリした。
「一ノ瀬さん、これ、どこに置きます?」
河瀬さんが四角くって赤いデジタル時計を片手に持って俺に訊いて来る。
「ああ、それは、個室の方に置くので俺が持っていきます」
俺がそう答えると、河瀬さんは俺に「分かった」と言ってデジタル時計を渡した。
さっきから、この調子である。
河瀬さんを気にしない様にしようとしても、河瀬さんの方から、アレはどうする、コレはどうする、と質問が飛んできて、相手にしないわけにはいかない。
俺は、寝室にしようと決めた個室に向かいながらため息を付いた。
手伝ってもらえるのは有難いけど、この緊張感は何だ。
「はぁ、俺ってやっぱりダメだな」
俺は人見知りの自分を呪った。
河瀬さんは良い人みたいだし、もっと愛想よくしたいのに話しかけられるたびに緊張してしまう。
子供のころから他人と話す時、妙に緊張してしまうのだ。
変な事言って相手を嫌な気持ちにさせたらどうしようだとか色々考えてしまって会話も中々進まないし。
こんなんだから友達と言えるものがいたためしがない。
「はぁっ……」
でも、大学生になったら俺は変わるんだ。
もっと明るくなって積極的にコミュニケーションをして、友達を作る。
それは俺の目標の一つだった。
「よしっ!」と一人、ガッツポーズを取る。
俺は勢いよく個室の扉を開け、部屋の中に入り、ベッドの横のスチール製の小さなサイドボードにデジタル時計を置いた。
うん、中々いい感じ。
このサイドボードとデジタル時計は寝室に良いだろうと思って新しく買った物だ。
俺は部屋の中を見回してみる。
まだ片付いていないが、中々オシャレな感じになってる。
うん、うん。
一人、満面の笑みで頷く。
次に真新しい部屋の空気を大きく吸い込むと心が洗われる様だった。
この個室には天井近くに横に細長い窓が一つあって、それは曇りガラスになっている。
ゆえに、カーテンが要らないのは助かる。
取り敢えず、今日中にこの部屋で眠れる様にしなくっちゃ。
床は綺麗に見えるけど拭いた方が良いのだろうか?
俺は首を傾げる。
まあ、掃除用ワイパーをかけるだけで良いか。
ナイスアイディアに手を打つ。
こうして一人で部屋の隅々まで見ながら、「ああ」とか、「おおっ!」とかリアクションを繰り返していた。
すると「一ノ瀬さーん!」扉の向こうから河瀬さんの声が響く。
俺の体はビクリと震えた。
そうだ、河瀬さんがいるんだった。
「はーいぃぃっ!」
俺は精一杯の返事をすると部屋を出た。
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