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第28話 初めての×××
俺の着ているティーシャツは胸の上まで河瀬さんの手によってまくり上げられていた。
河瀬さんは出来るだけ目立たない所の血を吸ってくれているのでそういった部分の素肌を晒す事は仕方がない事として受け止めている。
けど、キッチンとか、こんな場所でシンクの端に両手をついて河瀬さんに覆いかぶさられている状態でいると何とも変な感じがする。
しかも河瀬さんの方はしっかりと服を着ている。
今は料理中という事もありエプロンまでしている。
今、河瀬さんがまくりあがったティーシャツの裾の部分の直ぐ下辺りの肌に牙を突き立てて、俺の血を吸っている。
「あっ……あぁんっ。もっとっ……」
俺は自分でも可笑しいと思うほど卑しい声を出して河瀬さんにそう言っていた。
血を吸われる事が本当に気持ち良いのだ。
それは回を重ねるごとに深まっていく様に思える。
それ以外にも……。
何だか、体の中心辺りが凄く疼くのだ。
その部分が芯から熱くなる感じがして。
痛いくらいに。
これは一体何なのか。
どうしようもなく、うずうずして。
どうにかしたいのに、どうしたら良いのか分からない。
この感覚を誤魔化すために肌に吸い付いている河瀬さんの唇へと意識を向ける。
ちゅぅっ。
ちゅっ。
河瀬さんが唇を動かす音が耳に響く。
コトコトとポトフが煮える音も。
もっと。
もっと吸って欲しい。
そうじゃ無いと、おかしくなる。
「んっ……んぅっ。河瀬っ。もっと」
もっとして。
そして俺のこの感覚を誤魔化して……。
河瀬さんの唇が離れた。
荒れた呼吸を吐き出しながら「何で」と問うてみる。
「これ以上はダメです。秋君の健康の為です」
そう言って河瀬さんはいつもみたいに舌で吸血行為によって出来た傷を舐めてくれる。
「んっ」
気持ちいい。
でも。
何かが物足りない。
下半身が凄く熱い。
体の中心が爆発しそうなほど疼く。
「かっ……わせっ。俺、変っ」
俺の声に河瀬さんの動きが止まる。
「大丈夫ですか?」
心配そうに河瀬さんが言う。
俺は首を振った。
「な、何んか、変で。体の真ん中がおかしくてっ。うずうずしてっ……それでっ、下の方が痛くて」
泣きそうな声が出た。
一秒くらいの間があった気がする。
河瀬さんが、「ああ……」と呟いた。
それからまた間が出来る。
「な、何っ?」
不安で首を後ろに捻って河瀬さんに訊ねた。
河瀬さんと目が合うと、河瀬さんは一度目を伏せた。
それから静かに言った。
「秋君、嫌な質問だったらごめんね」
「何?」
「秋君……一人でした事、ある?」
「え……何を?」
俺がそう返すと、河瀬さんは何か納得したみたいで、「そうですか」と言った。
何が何だか分からない。
俺はこのままどうなってしまうんだろう。
不安でたまらない俺に対して河瀬さんは落ち着いている風だった。
「秋君、あのね。今から、その変な感じを直してあげます。変な事されてると思うかも知れないですけど、こうするのが一番だと思うんです」
「大丈夫になるんなら何でもして下さい」
神に祈る様な思いで俺は言った。
河瀬さんは小さくため息を吐くと、「じゃあ、始めますから。嫌だったら言って下さい」と言う。
俺は頷いた。
この疼きが消えるなら何だって良い。
早くして欲しかった。
河瀬さんの腕が俺の前に伸びて来た。
背中に感じる河瀬さんの体温が心地よくて俺は目を瞑った。
河瀬さんの手が俺の下半身に滑らかに伸びる。
そうして、パンツ越しにそこを撫でられた。
「あっ」
体がビクッと動く。
「河瀬さん、そんな所、触らないでっ」
河瀬さんは、手を止めず「痛いですか?」と訊く。
「いっ……たく無いけど、恥ずかしくて」
「嫌?」
嫌だ。
恥ずかしくて。
でも。
そこを擦られると凄く気持ちが良かった。
俺は返事に困った。
やめて欲しいけど、でも。
気持ち良くなりたい。
「嫌なら直ぐに言って下さい」
そう言って河瀬さんが俺のそこを上下に擦る。
河瀬さんの指が動く度に体がビクビクと動いて、色めいた声が溢れて来る。
そうされているうち、どういう訳か、俺は腰を振っていた。
じわじわと気持ち良くなっていく。
もう、嫌だとか恥ずかしいとかは忘れて河瀬さんとのこの行為に夢中になっていた。
「あっ、あっ」
口から涎が垂れる。
河瀬さんの手の動きが早まる。
すると例えようの無い感じが俺の下半身の一点に走る。
「んんっ。あっ、何か来ちゃうっ」
震える声で俺が言うと、河瀬さんは俺の頭を優しく撫でて「大丈夫ですから」と言う。
それで安心出来た。
河瀬さんは片方の手で俺の背中をさすり、もう片方の手で下半身の部分を少し強めに擦った。
擦られた瞬間、ビクビクと体が震えた。
「あっ、な、何か……出ちゃうっ」
「大丈夫だから、そのまま出して下さい」
耳元で優しく囁かれる。
それで気持ちが緩んだ瞬間、河瀬さんの手の動きが早くなった。
「んんんんっ」
俺の下半身のそれから勢いよく熱いものが噴き出した。
目がカチカチする。
俺はもう、自分の体を支えることが出来ずにその場に座り込んだ。
目の前が真っ白になる前に、ポトフの美味しそうな匂いが漂っているのを感じた。
「ふぁ……」
自分のあくびで目が覚めた。
僅かに明るい。
河瀬さんに吸血されて。
気持ち良くなって。
それで、何だか体がおかしくなって。
その後に河瀬さんに……。
それから。
その後の事を俺は覚えていなかった。
空っぽの頭を抱えながらぼんやりとした。
ふと、自分が河瀬さんの寝室のベッドに寝かされている事に気が付いて勢いよく俺は体を起こした。
そうして、さっきの河瀬さんとの吸血行為をまた思い出す。
河瀬さんとのあれは何だったのか。
血を吸われて、その後で……。
何となくだけど、凄くイケナイ事を河瀬さんにさせてしまった様に思う。
河瀬さんは今、何をしているのだろうか。
ベッドから出ると、自分の物では無い服を着ている事が判明する。
俺にはダボダボのティーシャツに、裾の長いジーンズ。
ジーンズの裾は丁寧に折られていた。
「これ、全部河瀬さんが……」
俺はたまらず、寝室を飛び出した。
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