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第37話 大人の正しい酔い方

「……僕も、秋君の血が欲しいです」  その台詞を聞いて耳を疑う。  そんな事、河瀬さんが言ったためしは無かったから。 「あっ……」  何て返して良いのか分からなくなる。  河瀬さんは酔っぱらっている。  酔いに任せてそんな事を言っているのだろうか。  でも、河瀬さんから欲しいと言われるのが嬉しい。  自分が必要とされてるみたいで。  でも。 「河瀬っ、本当に?」  疑いたくなもる。  本当に河瀬さんは俺の血を……。 「凄く、欲しいです」  とろけた目でそう言われると、もうダメだった。  河瀬さんが酔っている事は分ってて。  だから、それでかも知れないのに。  でも、それでも嬉しい。 「今すぐ、吸って下さい。俺の血を」  河瀬さんは黙って頷く。  ドキドキと心臓が鳴る。  こんなにスムーズに事が運ぶなんて。  これで河瀬さんの役に立てるなら……。  お酒の力、万々歳だ。 「此処じゃ、何ですから。ベッドに行きましょう」と河瀬さん。 「ベッド……ですか?」 「はい。嫌……ですか?」  俺は首を振る。 「じゃあ、行きましょう」  部屋に蝋燭を何本も灯して、部屋が丁度いい暗さになった所で河瀬さんは眼帯を取った。  何で蝋燭の明かりなんですか?  と言う俺の問いに河瀬さんが蝋燭の明かりの方が僕の目には優しいんです、と答えた。  俺がドキドキしながらベッドに横になると、河瀬さんが俺の体に覆いかぶさって来る。  ちょっとの不安。  ベッドから上を見上げると河瀬さんのとろけた顔が見える。  胸がドキリとする。  俺は顔を逸らして河瀬さんを見ない様にした。  河瀬さんの顔を見てしまうと底なし沼に落ちてしまいそうで怖い。 「秋君、嫌なら今言って」  優しい声。  俺は小さく首を振る。 「怖くない?」  俺は頷いた。 「じゃあ、始めますから」  河瀬さんが俺の着ているティーシャツを胸の上までまくり上げる。  恥ずかしくて俺は目を瞑った。 「秋君、僕の跡、沢山残ってる」  河瀬さんがそう言う。  河瀬さんは恍惚を浮かべて俺の体を見ていた。  多分、血を吸った跡の事だと思われる。  河瀬さんが俺の肌を指先でなぞる。  そこは前に血を吸われた場所。  河瀬さんの指が俺の肌を行き来する度に体がピクリと反応してしまう。  声が出そうなのを一生懸命我慢する。 「感じてるんですか?」と河瀬さんがやわらかく微笑む。 「感じるって何?」  俺の台詞に河瀬さんの目が細む。  俺を見下ろしながら妖艶に目を光らせている。  俺の心臓が鼓動を強く刻む。  さっきまであんなに可愛く酔っぱらっていたのに、ギャップ在り過ぎだろ。 「秋君……」 「は……い」 「今日は。ここにします」  河瀬さんが俺の左胸の下辺りを指で弾いた。 「んっ」  我慢していた声が出てしまった。  俺は慌てて口を両手で塞ぐ。 「声、恥ずかしい?」  耳元で甘く囁かれる。  そんな事にも体が反応してしまう。  河瀬さんの甘い香りが纏わりついて。  早く血を吸って欲しくてたまらなくなる。 「はっ……早くっ」  じれったくてそう言ってしまう。  ああ。  これは……。  河瀬さんの存在自体が媚薬みたいなものだ。  俺の心と体を河瀬さんが侵食してくる。  早く。  もっと早く。  俺を求めて欲しい。  河瀬さんがゆっくりと俺の体に身を沈める。  そうして、目当ての場所に舌を這わす。  吸血の痛みを和らげる行為。  そんなの良いから早く血を吸って欲しい。  早く。  もう、我慢できないから。  そんな風に願うのに、河瀬さんは時間をかけて俺の胸の下に舌を這わせた。  くすぐったくて、気持ち良くて。  また、あの感覚になる。  体の中心が熱い感じ。  体の奥底からジワジワと溢れて来る。  もう、我慢が出来ない。 「もっ……お願いだからっ……吸って欲しいっ……血っ」  涙を目の下にためながらそう懇願する。 「秋君、泣かないで。直ぐにしますから」  河瀬さんの優しい声。  俺は強く目を閉じて頷く。  河瀬さんの牙が肌に触れる。  俺の両手に自然と力が入る。  その手に河瀬さんが手を絡ませる。  俺は思いっ切り河瀬さんの手を握った。  その瞬間。  河瀬さんの牙が俺の体に入って来る。 「いっ……」  痛い。  でも、この痛みが長く続かない事を、俺はもう知っている。  痛みは痺れに変わり、段々と快楽へと変わる。 「ふぁっ」  俺はもう声を押さえられなかった。  胸の下を噛まれているので、河瀬さんの鼻が俺の胸の粒に当たる。  河瀬さんが頭を動かすたびに、そこが擦れて、甘い疼きを感じる。  こんな所。  何で。 「んっ、んっ、んぅっ」  胸が気持ちいい。  血を吸われている事の気持ち良さも合わさって、どうにかなりそうで。  俺は思いっ切り頭を逸らした。 「んぅっ、いいっ。あっ、あっ」  河瀬さんが強く血を吸い上げる。 「ああっ!」  体が跳ね上がる。  俺を包み込む河瀬さんの熱で溶けるんじゃ無いかと錯覚するほどに自分が保てない。 「もっ……」  もう。  おかしくなりそう。  このまま。  もっと。  じゅるり、と音を鳴らして河瀬さんの唇が俺の体から離れる。  まだ。  まだ、中にいて欲しいのに。  俺は無意識に河瀬さんの髪を掴んで、「もっと」とねだる。 「もう……ダメですよ」 「でもっ……変になっちゃう」  俺がそう言うと、河瀬さんが吸血の傷を舐め上げながら「変って、どんな風に?」と訊いて来る。  俺は恥ずかしさを我慢して、「体の……下の方が熱くて……変になる」と答えた。  河瀬さんの視線が下に向く。  河瀬さんがニッと笑って、「こんなになるほど、良かったですか?」と言う。  俺は大きく首を縦に振った。 「ここ、辛いですか」  河瀬さんの手が俺の熱に布越しに触れた。  それだけで体がビクリと反応してしまう。 「辛い……から。助けて」  そう懇願すると河瀬さんは艶めいた表情で甘く微笑み、躊躇いなく、「はい」と答えた。  河瀬さんそんな魅力的な顔しないで。  溶けちゃう。  こんな河瀬さんを俺は知らない。  遠慮しながらのいつもの河瀬さんとの行為と全然違う。  これがお酒の酔いのせいだとしたら凄いな、と思もう。 「秋君、可愛いです」  河瀬さんはそう言ってため息を吐きだした。  こんな事にいちいちドキドキしてしまう自分が嫌になるほど、河瀬さんは色気があった。  蝋燭の光が揺らめいて、河瀬さんの金の目が揺れる。  その瞳で見つめられると、もう、何をされてもいい様な気がしてくる。 「河瀬っ、河瀬っ」  何度も名前を呼んだ。  優しく河瀬さんの手が俺の頬を撫でる。  ああ。  このまま。  河瀬さんに飲み込まれたい。  ずっと二人でくっ付いていたい。  この気持ちが吸血の媚薬効果のせいなのかも知れないと思うと苦しい。  苦しいから。 「早く、して」  小さな声で、そう言葉にして吐き出した。

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