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ー記憶ー31

『あ、ああ……分かったよ』  そう望が答えると、雄介は語り始める。 「なぁ、この前、望の家に行ったやろ? あの時、俺が望のこと抱きしめたやんか……何で、あの時、俺のこと拒否したん? 望は違うのかも知れへんけど、俺の方はな、こう思ってしまったんや……『望に嫌われた』ってな。 せやから、望はその時どう思ってたん? っていうのを教えて欲しいんやけど……?」  そう雄介が言うと、望の方は言いにくそうに、 『だから……それは……』  そう言ってなかなか口にしない望。 その言葉は望からしてみたら恥ずかしい言葉だからなのか、どうやらなかなか口に出来ないようだ。 「なんや言うて……そうやないと、俺の気持ちに整理がつかんしな。 何か俺が望に悪いことしたんやったら、そこ、直すし……」  雄介にそう言われたからなのか、それとも雄介のことが好きだからなのか、誤解されたくないとでも思ったのか、そこは分からないのだが、望は言い淀みながらも語り始める。 『だから……その……せっかく、恋人同士になれたのに……俺ら……そんなに会えないだろ? その……そうやってたまに会えた時に……えっと……その……お前の温もりを……体が覚えちまうと……別れる時に……俺的には辛いんだよ。 って思ってしまって……それを忘れてしまった方が楽なんじゃないかと思ったからで……べ、別に……俺はその……お前のことを決して嫌いになって……あんな行動をしたって訳じゃねぇからさ』  雄介は望の話を聞いて一つため息を吐くと、 「アホか……そういう理由やったら、毎日でも俺はお前んとこに会いに行ったるし、ほんで、俺の温もり忘れんようにしたるしな」  その雄介の言葉に望は何も返せなくなってしまったようだ。 まさか雄介がそこまで言ってくれるとは思ってなかったのかもしれない。 雄介は本当に望のことが好きで、全くもって望と別れようとは思ってないからこそ、そこまで言えるのであろう。 だから望だって返す言葉がなくなってしまったのだろう。 今やっと二人の心が通じるようになったような気がする。

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