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ー記憶ー32

「それは本当に今、望が雄介のことを好きな証拠だ。」  こうなんて言うのであろうか、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが込み上げて来ているのかもしれない。  確かに毎日会えるのは嬉しいことなのだが、雄介の体に負担が掛かってしまうのではないかと心配になる。 『でもさ……仕事が終わってからだと疲れるだろ?』 「ん? あ……まぁ、そこは、心配せぇへんでも大丈夫やで。 俺がやってる仕事は元からが体力勝負なんやで……せやから、望と会う位の体力位は残っておるし。」 『そうか。』 「これで安心出来たか?」 『ああ、まぁな。』 「ほな、また明日、絶対に会いに行くし、待っててな。」 『ああ、分かったよ。 じゃあな。』 「おやすみ……望。」 『ああ、おやすみ。』  そう言うと二人は同時に電話を切る。  雄介は電話を切った後に安心したのか安堵のため息を吐くのだ。  そう、今の話での望というのは雄介のことが嫌いになった訳ではなさそうだったからだ。  望のことを雄介が抱き締めた時に拒否した理由も分かった。  そう、恋人の温もりを覚えたくはないからだ。 という事だ。  雄介とは仕事が忙し過ぎて頻繁に会えないという事から雄介との思い出を体に残しておくと逆に辛くなるという事かららしい。  それを聞けて雄介の方も安心出来たという所だろう。 「そういう事やったんか……」  そう本人の口から聞くと余計に愛しさが増したようにも思える。 そして更に愛しく感じてしまうのは気のせいだろうか。  雄介は今の望の言葉で心が温かくなっているのかもしれない。  雄介は暫くさっきの望との会話を思い出してボーッとしていたのだが、フッと時計を見上げると時計の針は一時を差しているという事に気付き、突然体を起こすとお風呂へと入る準備をするのだ。

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