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ー記憶ー114

 雄介は、望の唇から離れると身を起こした。  その一方、望は今の雄介のキスだけで、肩で荒い呼吸を繰り返していた。 「今のはここまでにしようか? ごめん……だけど、俺は別にお前を嫌いになったわけじゃないからな」  雄介は絶対に望のことを嫌いになったわけではない。 記憶のない望に対して、これ以上のことはしたくなかった。 彼を傷つける可能性もあるからだ。  本当に雄介は望のことが好きだ。 だからこそ望を抱きたいという気持ちは強い。  しかし、今の望は望でありつつも、望ではないような気がしている。 これでは記憶のある望に悪いような気もする。  そして、雄介が自分を望の従兄弟だという関係にする理由にも意味がある。  確かに望の側に居たいという理由もあるが、親戚という関係にしておけば、雄介自身も望に対して歯止めみたいなものが効くかもしれないと思ったからだ。  やはり望を抱くのは、望の記憶が戻ってからにしよう。  雄介はそう思うと、望の部屋を出るようにして去っていった。  もう記憶のない望と一緒にいるのは、色々な意味でつらいと感じたのかもしれない。  暫くは従兄弟の振りをして、望の様子を見守りたかったが、既に嘘が望にバレてしまい、雄介はもうしばらくの間は望と一緒に暮らすのを諦めたようだ。  もうこうなってしまったら後のことは和也に任せるしかないと、彼は思ったのだろう。

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