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ー天災ー44
こういう時だからこそ、先ず患者さんが優先な筈なのに、なぜか恋人の顔が浮かんでくるのだろうか。
喧嘩別れしたようなものだし、もう忘れてもいいはずなのに、何度も望の頭には雄介の顔が浮かんでくる。
それに、向こうだって望に何も言わずに去って行ってしまったのだから、もういい加減浮かんで来て欲しくはない。
そんな望の様子が気になったのか、和也は、
「望……大丈夫かぁ?」
「あ、ああ……まぁ……」
「なら、いいけどさ……」
あれからどれくらい経ったのであろうか。 望と和也は必死になって患者さんの処置に当たっていたからなのか、時間がどれ位経ったのかさえ分かっていない状態だ。 望達だってこれだけずっと働き続けているのだから、体の方が限界に近いのだろう。
そんな中でも、次から次へと重症患者さんが運ばれて来る。 だから弱音も吐いていられなければ、休んでなんかもいられない。 健康な自分達よりも今は患者さんの方が優先だ。 二人は体に鞭を打ちながらも動き続けるしか今はなかった。
本当に今回の大地震でどれだけの被害があったのかさえも、今は分からない状況だ。
望達の場合には特にだろう。 寧ろ、あの地震から一歩も処置室から出ていなければ、テレビも見に行けていない。 この病院はとりあえず自家発電が稼働しているからこそ、テレビが見れて情報が入って来るのかもしれないが、それさえも今は確認出来ない状況でもある。
そして、望と和也はどうにか地震があった夜には休む事が出来た。
二人は体を引きずりながら部屋の方へと戻っていくのだ。
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