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ー雪山ー35

 それに裕実や和也ももう寝ている筈なのだから一階の方には、まったくもって人の気配はない筈だ。 雄介だって望がお風呂から上がる前にとっくに出ているのだから部屋に戻っていてもおかしくはない。  そうなると本格的に幽霊しか頭の中には出てこない。  望がここで一人で住み始めてから大分経つのだが、今までにこんな事はなかった筈だ。  望はそのことを踏まえて冷静さを取り戻すと、トイレのドアに耳を当てて、とりあえず中の様子を探ってみる。  望がしばらくの間、そこに耳を当てて聞いていると、一応微かな声は聞こえるものの手か何かで口を塞いでいるのであろうか。 それとも気持ちが悪いからなのであろうか。 本当にそこからはうめき声みたいな声しか聴こえて来なかった。  まさか望の家のトイレで望以外の三人が体調が悪くなってトイレに籠ってしまっているとも考えられる。  望の方は今は恥ずかしいとかそういう思いではなく、職業病の方が上回ってしまったのか、トイレの中で誰か苦しんでいるのではないかと思い、思いっきりトイレのドアを蹴り開ける。  すると、そこには居たのは雄介がズボンを下げて便器に座っている姿だった。 「……へ? あ、何!?」 「……へ?」  その雄介の姿に驚いたのは望の方だ。  急病人がいると思って思いっきりドアを開けたのだが、そこにいたのは普通に座っている雄介の姿だったからだ。 しかも自分のモノに手を掛けているのだから一人でヤっていたのであろう。  そんな雄介の姿に目を丸くしているのは雄介だけではない。 早とちりしている望の方もだ。 「望……? どないしたん?」  一瞬、目を丸くしていた望なのだが雄介にそう声を掛けられ、 「な、何してんだよ」 「そりゃ、こっちの台詞でもあるし」  そう雄介の方は迷惑そうに言う。 「お、俺はだな……」  そう言うと望は雄介の姿をハッキリと見てしまったようで、急に恥ずかしくなってしまったのか壁へと寄り掛かかると視線を外して黙ってしまう。  だが次の瞬間まだ視線は逸らしたままの望なのだが、 「……つーか……何だよそれ?」

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