641 / 1491
ー雪山ー70
雄介は立ち上がろうとしたが、望に服を掴まれてしまい、うまく立ち上がれずに再びベッドへ腰を下ろすことになった。
「ちょ、何?」
そう言う雄介の視線には、黙ったまま彼の洋服を掴んでいる望の姿が入る。
困ったように息を吐きながら、雄介は、
「皿を置いてくるだけだし、本当にちょっとだけ待っててくれたらな……そう、そう! 走って行ってくるから」
と言うと、望は手を離し、すぐに布団の中へ潜ってしまった。
とりあえず雄介は走って下へ向かい、お皿を置いてくると、食器さえ洗わずに二階へ戻ってきた。そこには、まだ布団の中に潜り込んでいる望の姿があった。
この状態では、望がすぐに機嫌を直すわけがない。そんなことは分かっているが、雄介は考えながらベッドの端に腰を下ろす。
困った表情で顎に手を当てて考えていると、望が雄介の腰の辺りに腕を回してきた。
「え? ちょ、今日の望……どうしたん?」
望の行動に驚いた雄介は、思わず立ち上がろうとしたが、望の力が案外強くて、雄介は再びベッドへと倒れ込んだ。
そして、望はスルスルと雄介の後ろで半身を起こし、雄介の耳元で、絶対に望の口からは言わないであろう言葉を囁く。
「……なぁ、雄介……抱いて……」
そんなことを耳元で囁かれたら、誰だって体がビクつくものだ。だからなのか、雄介も体をビクつかせていた。
「ちょ、ちょっと、ほんま……それは、やめてぇな」
雄介は望に抗議するが、彼の言葉とは裏腹に、望は挑発するかのように今度は耳に息を吹きかけた。
「ちょ、望……何がしたいん?」
ともだちにシェアしよう!