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ー雪山ー98
「やっぱりか」
そう雄介は独り言のように小さな声で言ったつもりだったのだが、それはどうやら望にも聞こえてしまっていたようだ。
「『やっぱり』って何だよ」
「あっ! え? いや、何でもないよ。こっちの話だから、気にするなや。いつもの望の方が扱いやすいって思っただけだからなぁ」
そう言って雄介は望に向かって笑顔を見せる。
望はその雄介の言葉に顔を赤らめ、料理に箸をつけるものの、顔を俯かせながら食べていた。
「まったく、いつもの俺の方が扱いやすいって」
「そのまんまやな……」
雄介はクスクスと笑いながら言った。
「俺はいつもの望の方が幸せを感じるようになってきたしなぁ」
「朝から変なこと言ってないで、早く飯を食って仕事に行けよな」
「まぁ、望の場合、そういうこと言う時って照れ隠しってやつやもんなぁ」
雄介はそう言ってニコニコしているが、望は何やら拳を握っているようだ。
その姿を見て余裕をかましている雄介。そして、
「本当に、望って可愛いよなぁ。それで、その握った拳はどうするつもりなん?」
「うるせぇーよ! こうする気だっ!」
望は雄介に向かって、その拳で打とうとしたが、雄介の手によって軽々と押さえられてしまった。
「お前は俺には勝てないんやから、朝から無駄な体力は使わない方がいいと思うで。望だって、俺との差は知っておるやろ? それに、今のは殺気さえも感じなかったしな。じゃあ、俺は時間がなくなってきたから、先に行くな」
雄介は立ち上がると、望の額にキスをして家を出て行った。
一人残された望。雄介が家を出て行った後、一人部屋の中で呟いた。
「決まってるだろ? 俺が本気で好きなのはお前だけなんだよ。だから、本気で打つわけがないだろうが……。それに、朝、俺がお前のことを突き放そうとするのは、お前を仕事に行かせるためでもあるんだよ。今のだって……『頑張って来い』っていう俺なりの気合いの入れ方なんだって。だけど、昨日の夜のこと、本当に覚えてないんだよなぁ」
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