674 / 1491

ー雪山ー103

 それから、いつものように診察室での仕事を終えると、各科ごとに片付け作業を始める。  和也が自分の診察室を片付けていると、隣の診察室から金属音が響いてくる。  だいたいこういうことをしでかす人物はわかっている。だが、今日の和也はその金属音に対して動かないでいる。  そんな和也に気付いたのか、望は、 「和也ー」 「なんだよー」 「今の音の元は、どうせ、アイツだろ? 絶対に台かなんかをひっくり返した音だと思うんだけどな」 「だから、何?」  そう冷たく返す和也。 「だからさ、片付けるの手伝ってやればいいだろって」 「だってさ、自分でやらかしたんだから、自分でやらせた方がためになるんじゃねぇのか?」  その和也らしくない言葉に望は息を吐く。 「お前ってそんなに冷たい性格だったっけ?」  望の言葉に反応したのか、和也は動きを止める。  望はそんな和也の姿を見て、後ひと押しと思ったのだろう。 「いいのか? お前の一番いいところを出しきれてなくて、そこが、お前の取り柄みたいなところだろ?」 「ん、まぁ……」 「分かってるんだったら、今、それを見せなくてどうするんだよ。今がそのチャンスとかって思わないのか?」  そこまで望に言われると、さすがの和也も重い腰を上げ、とりあえず裕実がいるところへ向かった。  裕実は和也を視界に捉えると、 「和也さん……」  そう口にしたのだが、なぜか首を横に振り、再びむっとした表情で片付けを始める。  和也は無言のまま裕実と一緒に片付け作業を始める。  だが、和也の頭の中にはさっき望が言っていたことが浮かんでいたのだろうか。  和也は掃除をしながら、 「お前が今、俺のことをどう思っているのか? っていうのは分からないんだけど、俺はお前が俺の方に戻ってくるまで待ってるからな。俺は……今の俺はお前と話さないだけでも、心の中はぐちゃぐちゃなんだからよ」  和也は自分が裕実に言いたいことを言うだけ言うと、片付けを済ませて望がいる診察室へ戻る。  まだ望は残っている仕事をしていたが、和也の気配に気付いて、和也の方へ視線を向け、 「……で、どうだったんだ?」

ともだちにシェアしよう!