676 / 1095

ー雪山ー105

 和也はいつものように明るく振る舞っていたが、望から見ると、それはきっと空元気にしか見えなかった。  望はそんな和也にひと息つくと、掃除用具をロッカーの中へとしまい、着替えるためにロッカー室へと向かう。  望が出てきた後、和也もロッカー室へと入っていった。 「あ! そうそう! 帰りにスーパーに寄っていいか? 買い物していかないと家には何もないしさ。裕実とは外食ばっかりだったからさ」 「ああ、それは別に構わないけど。あ、和也の車で行かせてくれよ。車は二台あってもしょうがねぇだろ?」 「ああ……」  昔、この二人は喧嘩したこともあったが、今はこうして親友として仲良くするようになったようだ。あんな事があったのが嘘のように、今は本当に仲良くなっていた。 「そういやー、俺、雄介が東京に住んでた時、雄介の家には行った事なかったなぁ。いや、あったのかもしれねぇけど、忘れたって事なのかもしれねぇんだけどな」 「へ? そうだったのか!? 俺の方は一回だけあったかなぁ?」 「へ? それ、いつだよっ!」  望は興奮気味に和也に問いかける。 「いつって……だいぶ前だけどさ。ほら、お前等が喧嘩した時があっただろ? 俺の方は雄介の事を説得しに行ったことがあるっていうのかな?」 「そうだったのか」  最初は興奮気味に聞いていた望だったが、和也のその言葉を聞いて少し安心したのか、大人しくなる。 「ま、とりあえず行くか」 「ああ、そうだな」  和也は朝、裕実の事は後回しにしていたが、仕事を終えてからも裕実の事は全然気にしていないように見える。  そんな和也のことを気にしながらも、一緒に駐車場へと向かう望。  その途中、望は和也に問いかける。 「お前さぁ、本当に裕実の事はいいのか?」 「だって、今はそうなってしまったんだから、しょうがねぇだろ? 俺が今裕実の所に行ったってどうしようもないんだしさ」 「って、ちょっとは気にしたらいいんじゃねぇのか?」  和也は足を止めて、望に視線を向けると、 「俺が裕実の事を心配してないとでも思っているのか? だけど、あっちが今そういう気じゃねぇんだから何を言ったって無駄なんだと思う。だから、今の俺には何も出来ないんだからさ、何か言ったって仕方ねぇじゃん。だから、俺はもう裕実には何もしないだけだ。それに、気になって来たら、裕実は俺の方に戻って来るって信じてるからさ」  和也は望の質問に静かに答えた。 「ゴメン。お前がそんな気持ちでいたなんて知らなくて、だから、言っちまっただけだしさ」

ともだちにシェアしよう!