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ー雪山ー114

 和也は今あったことを思い出したのか、唇を洋服の袖で拭き始める。 「あー、やっぱ、裕実以外の奴とキスすると気持ち悪ぃ!」  和也は独り言のように言葉を漏らすが、さっきから望の口からは何も聞いていないようだ。 「望……? どうした?」  和也は望のことが心配になったのか、望の顔を覗き込むようにして見上げる。 「……あ、いや、なんでも……じゃあ、行こうか?」 「ん、そうか……」  とりあえず和也も適当に返事をすると、二人はやっとのことでスーパーから抜け出すことができたようだ。  二人並んで、というか和也が望の後を歩いて駐車場へと向かう。 「そういやさぁ、望……なんで大人しく車の中で待ってなかったんだよ」  和也が言うが、望の方は和也の言葉が耳に入っていないのか、また返事がない。  和也の車まで向かうと、望は助手席に座り、和也は運転席に座る。  和也が運転席に座ると、今日の望は何か考え事でもしているのか、手を顎に当てて首を傾げている姿が目に入ってくる。  だが、今の和也はそんなことはお構いなしなのか、車の中なのに関わらず望の耳に届くような大きな声で、 「望! 俺の話聞いてんのかっ!」  流石の望もこの狭い車内で大きな声を出されると耳に届いたようで、 「……へ? なんだよ」  その望の反応にため息を漏らす和也。 「だからさ、さっき車の中で大人しく待ってろって言ってあったのに、どうしてスーパーの方に来たのかな? って思ってさ」 「あ、ああ、それね。和也があまりにも遅かったから気になって行っただけだよ」 「まぁ、確かに予想していた時間より遅くなったのは悪いんだけどさ。店内で時間食っちまったのもあるんだけど、あ、そこで新城に捕まったっていうのもあったしな。で、今、望は何考えてんだ?」  和也はそこまで言うとアクセルを踏み、車を走らせる。 「いや、別に……お前のことを好きになる奴がいたんだなぁーって思ってさ」 「まぁな……しかし、強引過ぎて俺的には嫌だったんだけど……」 「じゃあ、お前は強引じゃなければいいのか?」  その望の意外な言葉に和也は首を傾げる。

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