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ー雪山ー119

「とりあえずさぁ、今はもう望の体とか見る気もねぇし、例え見たとしても、そんな気起こす気はねぇから、そこのところは安心して風呂に入って来いよ。もし見たとしたら、裕実に報告してもいいからさ」  和也はそう望に言うと、ソファに寄り掛かり、視線をテレビの方へ向ける。これで望からも和也の体は死角になる。  望はそれを確認して安心すると、お風呂場へと向かうのだ。  一方、和也は望がお風呂に入ったのを確認すると、体から力を抜いてため息をつく。  自分の家なのに人を呼ぶということは、気持ち的に気を使っているのだから、疲れてしまっているのかもしれない。 「あー! 望に薬飲ませるの忘れてたぜー!」  和也は思い出したかのように立ち上がると、クローゼットの中から薬箱を探し始める。  和也の家のクローゼットというのは畳二畳ほどあるのだ。扉を開けると両サイドには棚があって、そこに服などをしまえるようになっていた。 「洋服類は右側だから……確か左側に薬箱置いておいたよな?」  さすが一人暮らしが長いのであろう。独り言を漏らすと、思った通り左側の棚の上の方に薬箱があり、それを背伸びして取り出す。 「ご飯を食べて少し経っちまってるけど、平気だよな? しかも、望の場合にはきっと治りかけなんだろうしさ……まぁ、念のために飲んでおこうってことだしな」  和也は薬箱を見つけて満足したのか、クローゼットの扉を閉めると、冷蔵庫の中からビールを取り出し、喉を潤すかのように二口ほど一気に飲むのだ。

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