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ー雪山ー123

「そんな慌てたような顔しても、赤くしても……本当は俺に触れられるのが嬉しいんだろ?」  望は本気なのか、和也の顔を見上げながら言っている。 「あ、いや……べ、別に……の、望が俺に触れてきたくらいじゃあ……俺はさ……何とも思わねぇし……」 「何とも思わないねぇ? 何? もう、和也は俺に魅力とか感じねぇのか?」  そう望は、段々と表情を変え、和也を誘うような瞳で上目遣いに見上げる。  その姿に、さすがの和也も喉を鳴らす。  確かに和也だって、かつては望のことが好きだったのだから、今でも誘われてしまえば、抑えが効かなくなるかもしれない。それに、確かに今、和也は望に触れようとしていた。でも、和也だってそこまでで止めておこうと思った矢先、望に気付かれてしまった。しかも、望はそんな和也に向かって誘うような瞳をしてきているのだから、ヤバいのかもしれない。いやいや、和也がその望の誘いに乗る訳ではなく、どっちかというと、ヤバいのは望にも和也にも今は恋人がいるということだ。もし、ここで望の誘いに乗ってしまうことがヤバいに繋がる。望には雄介がいる。和也には裕実がいる。もし、このまま望に流されて望のことを抱いてしまったら、今までの関係が壊れることになりかねない。  確かに和也は一瞬望の体に触れようとはしたが、絶対に最後までする気はないのだから。  とりあえず今は、和也の中にある邪な考え方は止めようと、和也は頭を振って、自分を取り戻す。  そして望の肩を押してこれ以上、自分の方に来ないようにすると、 「とりあえず、望……落ち着こうか? 今、お前に誘われたって、今の俺には裕実がいるんだし、お前には雄介がいるんだろ? こういうことするの、ダメに決まってるじゃねぇか」 「でもな、俺はシたくて、シたくてたまらねぇんだけど、一日くらいいいじゃねぇか……それに、雄介たちに言わなければいいんだろ?」  望は完全に体を起こし、四つん這いの体勢で和也の両手首を押さえる。 「いい眺めだな……この位置からだとさ」  そう言う望に、和也は目を細めて望を睨み上げる。 「つーかさ、お前、こんなこと、俺にして楽しいのか? もしかしたら、雄介や裕実のこと、悲しませることになるってことなのかもしれねぇのに……ここまで、お前と仲良くやってこれたのは、望が雄介と一緒になって、俺がお前に手を出さなくなったからじゃねぇのか? その俺の想いを踏みにじる気かよ!」  最初は優しく望に言っていた和也だったが、悔しさか、それとも望に裏切られている感じがしているのか、瞳には涙を浮かべ、最後の言葉は力強く望を説得するかのように言っていた。和也は望に腕を押さえられたまま少し体を起こし、望を睨み上げる。  さすがの望も、今の和也の言葉が効いたのか、和也に言葉を返せなくなっていた。

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