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ー雪山ー124

 その時、和也は人の気配に気づいたのか、その体勢のままふっと横へ視線を向けると、テレビの前に裕実の姿があった。  裕実は和也と目が合った瞬間、走り出して家を飛び出していく。 「ちょ、おい! 裕実! 待てよっ!」  和也は望から腕を振りほどき、裕実を追いかける。  先ほどまでは望のその力に負けていたのだが、裕実がいたとなると、そのパワーは恋人の方に使われたのであろう。  和也が家を出てエレベーターに視線を向けた頃には、エレベーターは三階から一階を目指していた。 「……くっそっ!」  和也は舌打ちをしながら非常階段に向かって急いで降りてゆく。そして裕実を追いかけるが、やはりエレベーターの方が若干早かったのか、和也がマンションの玄関前に来た時には裕実の姿はなかった。  裕実の場合、車はない。自転車だって乗っている姿を見たことがないように思える。それなら、少なくとも今の裕実は歩きだろう。  マンションを出てすぐ目の前には横に伸びる道がある。もちろん、和也の目の前にもまっすぐに伸びた道があった。要はマンション前は三つの道に分かれているということだ。  とりあえず、和也はまだ裕実が住んでいる所には行ったことがない。だからマンション前で辺りを見渡してみるのだが、裕実の気配がもうなかった。きっとマンションを出てすぐに走って行ってしまったのであろう。 「くっそー! どの道で裕実は行ったんだっ!」  とりあえず迷っている暇はないというのか、このままここで考えていても、裕実との距離がどんどんと離れて行ってしまうだけだ。しかも今の自分たちの心の距離と同じくらい離れて行ってしまうのかもしれない。それに今の望と和也を見てしまっているのだから、今の裕実は完全に誤解している。それだって今は解かなければならないのだから。  さすがに喧嘩別れするのは嫌に決まっている。だからなのか、和也はいつも以上に今は真剣になっているのかもしれない。  今、一瞬、携帯で裕実に連絡すればいいと思った和也。  だが慌てて部屋を飛び出してきた和也は携帯も財布も鍵も持って出てきてはいない。しかも靴も履かず裸足のままでている状態だ。  でも、この状況で和也が裕実に電話したとしても、今の裕実が素直に電話に出てくれることはない。  なら、もう和也は自力で裕実を探すしかないということだろう。

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