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ー雪山ー125
和也は第六感が働く方へと走り始め、マンションを出て右の道へと走った。
その間、和也の頭に浮かぶのは裕実のことだろう。
さっき、裕実の姿を見た瞬間に望を吹っ飛ばして追いかけるのはおかしいのかもしれないが、それほどの勢いで和也は裕実を追いかけていたのだから。
本当に今、和也の頭の中には裕実しかないのかもしれない。
ただ一瞬、本当に一瞬だけ、かつて好きだった人が隣で寝ていたことに気持ちが揺らいだのかもしれないが、今、和也が追いかけているのは恋人である裕実なのだから。
走りながらも、和也の頭の中に浮かんでくるのは裕実と望のことだ。
それに今、裕実が走って行ってしまった原因は望にもある。
だから、和也の頭の中には二人の顔が浮かんでいるのかもしれない。
『……昨日、夜の記憶、俺には全くないんだよな……? しかも、俺から雄介のことを襲うなんてありえないだろ?』
そう、朝、望が言っていた台詞だ。
そして、望が記憶喪失になったときに雄介からも相談を受けたことも思い出したようだ。
『記憶のない望に襲われそうになって、望から逃げてきたんや……。確かに俺は望のことが好きなんやけど……記憶のない時の望っていうのは望じゃないような気がして、そんな気にはならんっていうのかな?』
和也はそのことを思い出しながら首を傾げ、走り続けた。
そうだ、そう考えると、朝、望が言っていたことは本当なのかもしれない。
今更ながら、さっき和也のことを襲ってきた望は、記憶のない時の望と同じ行動をしている。ということは……もしかしたら、そういうことなのかもしれないと思うが、今は裕実のことが優先だ。
とりあえず望のことは後回しにして、今はただひたすらに裕実を探すしかない。
だが、第六感だけで和也は走っているのだから、こっちに裕実が行ったという確証はない。
もしかしたら、違う道を行っているのかもしれない。そう思い始めた頃、夜中なのに一人の影が見えてきた。その影を見て和也は足を止めた。
「はぁ……はぁ……やっと見つけた……」
和也はゆっくりと息を整えながらその人物へと近付いて行った。
だが、なぜ裕実は走って行かなかったのだろうか。もし走っていれば、和也が裕実に追いつくことはなかったはずだ。
和也がゆっくりと裕実へと近付いていくと、裕実は俯きながら歩き続けていた。
夜中の静かな住宅街。裕実がすすり泣く声が聞こえてくる。
和也は完全に足を止めて裕実の名前を呼んだ。
「裕実っ!」
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