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ー雪山ー129

「もうー! 和也さんの馬鹿っ! 和也さんってば、僕のためだけに部屋を飛び出して来てー! おまけに何も持たずに出てきたなんて! それじゃあ、部屋に入れないじゃないですかー? 和也さん、自分で分かっているんでしょうか? 自分の住んでるマンションはオートロックだってことを……もし、望さんが起きてなかったら、中に入れないじゃないですかー!」  そう裕実は、そこで長い長い独り言を漏らすと、今まで瞳に溜まっていた涙を拭い和也のことを追いかけ始める。  そして和也のことを見つけると、裕実は和也のことを後ろから抱き締める。 「和也さん」 「ん?」 「和也さん……家に行ったら、和也さんの足の裏の治療しますね。足の裏、痛いんでしょう?」 「ん? まぁな。だけど、これは仕方ねぇよ。だってさ、好きなお前のために走って怪我した勲章みたいなもんだろ? それに、今さっきのお前の心の傷に比べたら痛くなんかないさ」  その和也の言葉に裕実はクスリとすると、 「やっぱり、和也さんという人は優しすぎですよ」 「恋人に優しくない奴がどこにいる」  和也も裕実へと微笑むと、裕実の頭をくしゃくしゃという感じで撫でるのだ。 「それに、和也さん……僕のために無謀なことしないでくださいよ。このまま歩いて帰って、マンションに着いたらどうする気だったんですか?」  そう言うと、裕実は自分のポケットに入っている和也からもらっている合鍵を見せる。 「……家の鍵!?」  和也はまだそれだけでは気付いていないのか、驚いたような声を上げるだけだ。 「和也さんの家……確か、オートロックでしたよね? 部屋に入る時どうする気だったんですか? 望さん、もう寝てるのかもしれませんよ」 「あ、あぁー!!」  どうやらやっと和也は事の事態を分かったらしい。そういうふうに裕実に言われて気付いた途端に大声を上げている位なのだから。そんな和也にクスクスと笑っている裕実。 「今から、僕も和也さんの家に行きますから」 「ああ、悪いな」  和也はそう言うと、 「あのさ、靴も片方でいいから貸してくれねぇかな?」 「それは構いませんよ。いや、寧ろ、両方和也さんに貸しますから」  そう言うと、裕実は自分の靴を脱いで両方とも和也へと渡すのだ。だが和也の方はまだ納得していないようで首を傾げながら裕実のことを見上げる。

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