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ー雪山ー134

 そう和也は瞳を宙に浮かせながら答える。 「では、質問を変えさせていただきましょうか? 自分の痛みが分からないのに、患者さんの痛みは分かるのでしょうか?」  裕実という人間はたまに、言い訳できないようなことを言ってくる。しかも、説得力のある質問までしてくるのだから、和也にとってはたまったものではない。 「まぁ、確かに足の方は痛ぇよ……だって、足の裏っていうのか、足の裏でも爪先方面っていうのかな? 確かにそこには細かな石が皮膚の中に入り込んでいるのかもしれねぇ。けど、痛いって言ったら、お前が心配するだろうと思って、あんま言わないようにしてただけなんだけどな」 「じゃあ、どうして和也さんはそうはっきりと僕に言ってくれないんですか? 確かに和也さんの言う通り、和也さんが痛いと言ったら僕だって心配しますよ。でも、痛がってくれた方が僕は医療関係者なんですから、これくらいの治療はしてあげますからね。ってか、今まで和也さんの言い訳を聞いていると、僕のことまだ信用してない感じがして……」  裕実は真剣な眼差しで和也のことを見つめる。 「……ゴメン。俺、そこまでお前の気持ち考えてなかったわぁ。ん、まぁ……お前が心配するってことしかな。信用する、しない、そこまでは考えてなかったってことだよ。ホント、裕実には頭が下がる思いだぜ。分かった! 今度、こういう怪我の時には先ずお前に言うしなっ! それでいいか?」 「はい!」  そこで二人はやっと笑顔になったようだ。そこは喧嘩ではなく意見のぶつけ合いといったところだろう。 「ですが……和也さん? この石は望さんに見せた方がいいのかもしれませんよ。暗くてあまり僕では見えませんが、黒い点みたいなのがいくつも見えているような気がしますしね」  今はお風呂場の明かりしかない状態で見ている裕実。それに、裕実の場合は目が悪いのか眼鏡を掛けているから、暗いと余計に見えていないのかもしれない。 「はぁ!?」  和也は裕実にそう言われて自分の足を引き寄せ、自分の足の様子を見てみる。 「こりゃ……確かにヤバいよな? しかも、細かい石が皮膚内に入っているように見えるし、それがもし血管に入って行ったら? それこそ不味いことになるんじゃねぇのか?」  ようやく和也も自分の怪我の状態を把握したようだ。  さっきまでは無我夢中で裕実のことを裸足で追っかけていたのだから気付かなかったことだったのだが、今見たところによると、足のつま先の裏にはちょいちょいだが細かい石が皮膚の中に入り込んでしまっている。 「もし、その細かい石が血管を通って心臓に辿り着いてしまったらどうするんですか? そんな小さな石でも心臓に辿り着くことが出来たら、命だって危ないんですからねっ! で、どうしましょうか?」  裕実と和也は、裕実の言葉でベッドで寝ている望の方に視線を向ける。

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