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ー雪山ー135

「どうするよ……」 「どうするよ……って、今から緊急外来に行くわけにはいかないでしょう? それに、その足の状態で和也さん、車のアクセル踏めるのですか? じゃあ、それは却下したとして、救急車で病院へ向かうのでしょうか? そうなると、救急車の音は大きいですからね……多分、その音で望さんが起きてしまう可能性があると思うのですが……」 「……だよなぁ。そうなると、望を起こさなきゃなんねぇのかな?」  そう二人は顔を近付けてコソコソと話していた。 「そうなりますよね? だって、その怪我を放っておくことはできませんからね」 「だけど、今の望を起こすのはかなり危険だと思うぞ……それに、何されるか分からないしな」 「では、救急車を呼びます?」 「それは不味いって、さっき言っただろうが……」 「では、どうするんですか!? もし、そんなことで和也さんが死んでしまったら、僕、怒りますからねっ!」  なかなかどうにかしようとしない和也に対し、段々と瞳に涙を溜めて声を荒らげていく裕実。 「シッ! あんま大きな声を上げるなよな……望が起きちま……う……あぁ!」  時すでに遅しという言葉はまさに今この時であろう。和也は人の気配に気付いてベッドの方に視線を向けると、望が半身を起こして目を擦っている姿が目に入ってくるのだ。しかも和也たちの方に視線を向けていた。 「ヤバい……望が起きちまったみたいだ……」  そう小さな声で裕実にだけ告げる和也。 「みたいですね」  二人で望の方に視線を向けながらビクビクとしていると、 「お前ら何してんだ?」 「あ、いや……別に……」 「確か、お前さぁ、裕実と喧嘩してるって言ってなかったっけ?」  望は寝る前に和也のベッドの頭のところに置いていた眼鏡を取って、ベッドの上へ座る。 「あー、とりあえず、裕実とは仲直りしたんだよな? な、裕実……」 「あ! はい! お陰様で仲直りしましたよ。やっぱり、僕はどんな和也でも好きだっていうことに気付きましたからね」  そう裕実は和也と望のことを交互に見つめるのだ。 「なら、良かったんじゃねぇのか?」  望はそう言いながら立ち上がると、徐に和也たちがいる方へ歩き始める。  そんな望の姿に、色んな意味で和也の心臓がバクバクしているのかもしれない。顔を強張らせて望のことを見上げているのだから。

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