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ー雪山ー138

 確かに裕実が言っていることは合っているのかもしれない。今、裕実は和也にだけ聞こえるような声で言っていた言葉に、和也は納得していた。 『あ、え? あ、まあ、そうだな……』 『でしょう?』  しかし、裕実という人間にはたまにこうやって驚かされることがある。普段はドジっ子でどこか抜けているような感じがするのだが、何かに優れた判断力を持っている。  今だってそうだ。最初、この治療は裕実にはできないと言っていたものの、大きな声を出してまで望のことを起こしていた。そして、そこから裕実は望の今の様子をうかがっていたのかもしれない。  さっきまで笑顔だった裕実が、今は真剣な表情で望のことを見ているのだから。  確かに和也は多少は痛いのだが、これくらいなら我慢できる痛さかもしれない。 「とりあえず、片方はいいかな?」  そう言って、足の裏を保護するように手早く包帯を巻いていく望。  続いて反対の足も治療を始める望。  和也の足の裏に入っている小石を、ピンセットやとげ抜きを使って、一つずつ丁寧に抜いてはティッシュの上に置いていく。  机の上に置かれたティッシュの上に石を乗せる度に、部屋の中にはコツンコツンという音が響いていた。 「ラスト一個……。しかし、よく、こんな足の状態で歩いたよな?」 「それは、和也さんが馬鹿なことをしたからなんですよっ!」 「それって? どういうことなんだ?」  一応、和也の足の裏から小石を除くと、望は今度は胡座をかいて腕を組み、どうやら話を聞く体勢になる。  そして裕実は、さっきあったことを望に話し始める。 「ま、お前たちもラブラブってことなんだよな? 普段、子供っぽいところしか見せない和也だけど、やるときにはやるっていう男だしな」  望はそこまで言うと、今度は立ち上がり、和也の頭をポンポンと撫でてからベッドの方へ向かう。

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