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ー雪山ー155

「当たり前だろ」  そう言うと、裕実は両手が空いたというわけで、和也の腕に腕を回して絡めて歩き始める。 「望……荷物、持つで……」 「思い出したかのように言うんじゃねぇよ。どうせ、和也のを見て持ってやろうと思ったんだろう?」 「そこはちゃうって。最初っから持つ予定でおったしな」 「いい……自分で持って行くからよ」 「せやけど、望の荷物重たそうに見えるんやけどな?」  望が持ってきているスーツケースというのは見た目も重たそうなのだが、そこに荷物が入ったらさらに重たそうに見えるからだ。 「望ー、そこは遠慮せんと……」 「いいって言ってんだろ。それに俺は裕実のように甘くはねぇぞ。例え、雄介にスーツケース持ってもらったって、あんな事はしねぇからな」 「そないな事は分かっておるわぁ……せやから、スーツケース俺に渡しぃ」  雄介は望からスーツケースを奪い取るようにして持つと、歩き始める。  そんな様子の雄介にこっそりと微笑む望。  望がどんなわがままを言っても許してくれるというのが雄介だ。だから望はきっと雄介にはわがままな事を言ってしまうのだろう。 「ちょ! 雄介! 早くしろよー! お前がここの予約してるんだから、お前が受付済ませてくれねぇと中に入れないんだってよ!」  そう先に行ってしまっていた和也が、入口から雄介に向かってそう叫んでくる。 「ああ! 分かったって……今行くし、待っておって!」  そう雄介は言うと、望の荷物と自分の荷物を持ったまま、その建物のスロープを駆け上がって行く。  日頃から鍛えているだけあるのだろう。息も切らさず雄介は和也たちがいる所まで駆け上がると、チェックインだけを済ませてコテージの鍵を受け取り、その事務所が入っている建物を抜けて四人は指定されたコテージへと向かうのだ。  その事務所から少し離れた所に幾つものコテージが建っていて、雄介はその中の鍵と同じ番号を探すとコテージの鍵を開けて中へと入って行く。

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