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ー雪山ー163

 いつもの望なら、きっとその雄介の言葉に「そんなわけないじゃねぇか」と答えていたのかもしれない。しかし、雄介が和也達に言っていた言葉が当たっていたのだろう。望は雄介の言葉に頭を頷かせているのだから。  そんな望の体を雄介はギュッと抱き締める。  今の二人にはあまり言葉なんか必要ないのかもしれない。こうして、くっついているだけで十分幸せな気分なのだから。  それに雄介は望のことを十分に分かっている。だから言葉なんかで言うより、こうやって抱き締めた方がいいということだ。  だが雄介は望を抱き締めている途中である事を思い出したようだ。  昼食の時に和也達と「明日は望もスキーに誘う」ということを思い出したのだが、この話をどう望に切り出そうかと思っているのかもしれない。  部屋内は段々と暗闇に包まれていく。  しかも東京と比べたら本当に静かな所だ。隣にいる和也達が会話をしていなければ秒針の音しか聞こえてこないのかもしれない。  そう、都会とは違い車や人工的な音というのは一切ないからなのかもしれない。  この静かな空間に聞こえてくるのは風の音や風が木々を揺らす音。そして木々から落ちる雪音に、風が窓を叩く音だけが聞こえてくる。  東京の音が人工的な音が多いのに比べて、ここは自然的な音が多いということなのであろう。  そして、その自然的な音のおかげなのか、時間もこうゆっくりと感じてしまうのは気のせいなのであろうか。都会では人工的な音によって早く時が動いているように感じるのだが、ここではそうは感じない。確かに同じ時を刻んでいるのは間違いないのだが、ここではそう感じてしまうということなのだろう。  いや寧ろ、このままここで時が止まってしまった方がいいのかもしれない。そうすれば望も雄介もずっと一緒にいられるのだから。  そして雄介はフッと望のことを抱き締めながら思ったことがあったようだ。今回は仕事のことを忘れてここに来たのだから、望にも遊んでほしい。だから、ここで寝ていないで明日は一緒に行きたいと思っているのかもしれない。

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