746 / 1092

ー雪山ー175

「ちょ、ちょ、ちょー、待てよ……。 望、とりあえず、落ち着こうか? 嫌いとか好きじゃなくてさぁ、お前には雄介がいるんだろうが。 ホント、望って冗談がきつくねぇ?」  望はさっき言った言葉の後に和也の方へと迫って来ていた。 だが、そんな望を見て和也はふっとある事を思い出す。 「あ! 酒……? 熱……? 望の顔が赤い?」  その和也の一つ一つの単語で裕実と雄介は和也が何を言いたいのかが分かったのであろう。  裕実と和也は視線を合わせると二人同時に頷く。  とりあえず今の望は厄介だということだ。 あの記憶喪失以来、熱が上がってくると我を失うというか望本来の性格が出てしまうということだろうか。 熱が上がると望の場合には見境なく誰にでも襲うということだ。 「ちょ、望……俺の所に来るよりか、今日はお前の恋人の雄介がいるんだろ? 俺とやるってことになったら、雄介の前で思いっきり浮気ってことになるんじゃねぇのか? そんなことしてまで、俺たちとの仲を壊したいのか?」  その和也の言葉に望は動きを止めていた。 「雄介が俺の恋人?」 「ああ、そうだ。 だから、お前が好きなのは雄介だろ?」 「でも、和也は俺のことを好きなんだろ?」  どうしてこうも望は嫌な記憶を覚えているのだろうか。 確かに記憶喪失になる前に和也は望に迫ったことはあった。 きっと望はそれを覚えているのだろう。 「それは確かにそうだったけど、今は違うからっ! 俺が好きなのは、今、俺の隣にいる裕実だけなんだからなっ!」  和也はそう言うと優しく力強く裕実の体を抱き締めるのだ。 「和也さん……?」 「当たり前だろ? 俺が本当に好きなのはお前だけなんだからさ」  和也はそう言うと、今、和也の目の前にいる望に見せつけるかのように裕実の後頭部を手で押さえて、ゆっくりと唇を重ねる。 「ほら、分かったんやったら、望は俺の所に来ぃ……俺が望のもんやろ?」

ともだちにシェアしよう!