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ー雪山ー181

 上着は着ているのに、突き刺すような寒さで手先が痛い。しかし、周りを見渡すと杉の木には雪が覆い被さっており、それが太陽の下で溶けているのか、たまにドサッという音と共に雪が落ちる音が聞こえてくる。そして、朝日を浴びて屋根や木の上の雪が太陽の暖かさで溶け始めると、地面に水たまりを作り音を奏でていた。本当に自然の音しか今は聴こえてこない場所だ。  こんな自然の音は、東京では絶対にありえないことだろう。  東京では本当に人工的な音しか聞こえてこないのだから。車の音や電車の音。だから、こうしてたまに自然の音だけを聞きに休暇を楽しむのは、良いことなのかもしれない。 「な、望……野うさぎがおるで……」  そう言われて雄介が指差す方に視線を向けると、確かに一匹のうさぎが耳をピンと立てて何やら警戒しているような姿が目に入った。 「すっげー、本当に野うさぎなんだな……?」 「みたいやな。こう、うさぎって動物園とかでしか見たことなかったけど、自然のうさぎは初めて見たわぁ」  そう言いながら雄介は再び歩き始める。  その後ろ姿に、再び雄介の優しさを感じる望。  今見たウサギについては決して近付こうともせず、大きな声で言うこともなく、静かに望に知らせるように話してきたからだ。  とりあえず、雄介と望は昨夜降ったと思われる新雪の上を歩き、二人が泊まっているコテージから五分くらいの所にある露天風呂へと辿り着いた。  しかし、たった五分くらいの距離で、こんなにも自然を感じられるとは思わなかったかもしれない。  雄介は先に脱衣所へ入り、早速服を脱ぎ始める。  一方、望は本当に久しぶりに雄介に体を見せることもあり、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。そして、雄介が先にお風呂場へ向かうと、望も服を脱いで後を追った。  もうここまで来たら、一緒に入るしかないと思った望は、雄介の後を追って風呂場へと向かうと、そこには露天風呂というだけあって絶景が広がっていた。  近くの山から遠くの山まで一望できる景色。空は雲ひとつない青空で、山々には雪が被っている。そんな景色は、ここまで来ないと見られないだろう。  絵葉書や写真では見たことがあるかもしれないが、自分の目で実際に見ると、本当に素晴らしい景色だ。  確かに望は中学校の時にスキー教室で来たことがあるかもしれないが、その頃は景色を楽しむという感じではなく、皆でワイワイとするのがメインだったから、ほぼ初めて見る景色に近い。それに、望の場合、そのスキー教室の時に骨折してしまい、それどころではなかった記憶があるので、余計に景色を楽しむ余裕すらなかった。

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