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ー雪山ー212

「お前さぁ、前から思ってたんだけど、本当はできる奴なんだろ? 和也はそこに気づいてないかもしれねぇけど、俺は最初っから、お前はすげぇ奴だって気づいてたんだからな」  その望の言葉に、裕実は肩の力を抜いて言った。 「さすが望さんですよねぇ。僕のこと、気づいてくれてたみたいで。そうですよ……本当は僕、ドジなんかじゃないんですよ。やっぱり、望さんには僕のこと見抜かれてましたか?」 「ああ、まぁな。こっちだって、人を見る仕事をしてんだからな。そこができなくてどうするんだ?」  裕実はその望の言葉にクスリと笑った。 「やっぱり、僕は望さんのこと好きになればよかったかな?」  裕実は視線を逸らし、小さな声でそう呟く。 「それは、さすがに俺にはできねぇよ」  裕実の言葉が望に届いたのか、望も呟くように答えた。 「望さん!」  裕実はすぐに望に笑顔を向け、望の顔を覗き込む。 「自分に素直になってくださいね。確かに雄介さんは心が広い方ですけど、でも、たまには望さんから愛の言葉を待ってると思いますから。本当に好きなら、なおさらです。恋人からの『好き』って言葉は魔法の言葉なんですから。雄介さんもそれを言われたら嬉しいと思いますしね」  望はその裕実の言葉に顔を赤くして言った。 「ああ、わかってる……でもさ、なんでか、雄介の前じゃ……な……。うまく口に出せねぇっていうのかな? そういうのって恥ずかしいし、雄介に言うと、調子に乗っちまうからさ……だからかな?」 「いいじゃないですか? 雄介さんのこと、そこまでわかってるなら、望さんが少し恥ずかしい思いをするだけで、雄介さんの笑顔が見れて、いつも以上にラブラブになれるんですからね」 「あ、ああ……まぁ、確かにな」  望は心の中で思う。本当に裕実という人物はすごいと。本当にこうも説得力があるというか、もう、裕実には何も言い訳ができないような気がしてくる。だからこそ、素直な心で話せるのかもしれない。嘘をついた時には、それを見抜く力があるから、望にとっては嘘がつけない人物の一人なのかもしれない。

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