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ー雪山ー216

 なぜか今日の望は、裕実の前なのにも関わらず、雄介からの頼み事を受け入れたようだ。  それは、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。  雄介が怪我をしていて気を使っているからか? それとも、夜中に裕実と話をしている時に裕実に言われたからか? それは望にしか分からないところだ。  少なくとも今は、その両方が重なっているため、素直に答えたのだろう。  望は雄介に言われた通り、雄介の唇に唇を重ねた。 「ん……ありがとうな」 「あ、当たり前なことだろ?」  さすがの望も、顔を赤くして視線を逸らしてしまった。望にとっては、人前でこんなことをするのは、恥ずかしいことだったのかもしれない。そんな望の姿に、雄介と裕実はくすりと笑った。 「あー、もう……なんなんだよー、お前らは……」 「あー、そうなぁ。望らしいなって思ってな」 「雄介さんの言う通りですよ。まぁ、望さんからしてみたら、成長したのかな? って思いましたね」 「だからって、笑うことねぇだろうが」  望は顔を真っ赤にしながらも、裕実を少し睨むように見つめた。 「分かりましたからー、そんなに僕のこと睨まないでくださいよー」  裕実は望から視線を逸らすと、助けを求めるように今度は雄介の方に視線を向ける。 「本当に望さんって怖いんですね」 「ああ、せやから、怒らせん方がええで……」 「みたいですね」 「お前らなー! 俺の下でコソコソ話したって聞こえてるつーの!」  二人は望の真下でコソコソと話をしているので、確かに丸聞こえだ。  そうなると、望の声は二人からしてみたら上から聴こえてくる訳で、雄介は望の方に視線を向けた。 「あー、ほんま、望怖いでー。な、裕実……今は望の方に顔向けん方がいいかもしれへんよ」 「本当ですか? それでは、見ないようにしますね」  二人がふざけているのが、望にも伝わっているだろう。望は二人に向かって睨んでいるが、特に本気で怒っているようには思えない。  その時、外のドアの方で物音がして、その後すぐにドアが開く音が聴こえた。  その物音に三人が気付かないわけがない。顔を上げて、部屋の中に入ってくる人物を待つ。 「お! 雄介、起きてたのか? とりあえず、下に行くぞ! さすがにこんなところにはヘリは下ろせないって言ってたからな」 「それはいいんだけどさ、雄介のことをあまり動かさないでどうやって連れて行くんだ?」

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