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ー雪山ー219

 二人が寝てしまった頃、雄介たちを乗せたヘリは春坂病院に到着していた。  望は雄介を病院内に運び終えると、すぐに手術の準備を始めた。  昨日の疲れはどこへ行ってしまったのだろうか。昨日ほとんど寝ていないのが嘘のような表情で、望は雄介の手術を行う。  いったい、これで望は雄介の手術を何回目になるのだろうか、と思うが、望が実際に行った手術の回数は案外少ないのかもしれない。むしろ、入院の回数のほうが多いだろう。  初めて望が雄介の手術をしたのは、雄介が初めて望の働く病院に来たときだった。二回目に来たときには、坂本と事件の話をしていて、誤って包丁が刺さってしまったという事故だった。新人の医師が治療を行い、望はハラハラしながら待っていたことを覚えている。三回目は、飛行機でハイジャックがあったときだ。望の働いている病院ではなく、大阪の病院だったため、望が雄介を治療することはなかった。  ということは、今日は久しぶりに望が雄介の手術をすることになる。  今はやはり、複雑な気持ちなのだろう。最初は患者として手術していたのに、今では恋人という特別な存在の人を手術することになったのだから。  そんな様々な感情を抱えながらも、望は雄介の手術を終わらせた。  そして今日は、雄介が目を覚ますまで病室で待っていた。  そうだ、今日は望にとっては出勤しての手術ではないのだから、雄介の手術が終わってからは自分の時間でもある。  だが、雄介のほうはまだ麻酔が覚めていないのか、起きる気配はない。  病室内は心地よい気温に保たれており、本当に気持ちの良い温度で、今までの疲れが体や脳に溜まっていた望は、その疲れを癒すために眠りにつこうとしている。  望の頭はコクリコクリとし始め、彼はそのままベッドサイドに頭を乗せ、本格的に眠り込んでしまった。  次に望が気付いた時には、騒がしい声で目が覚めた。 「やっと、望、目が覚めたみたいだな……」

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