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ー雪山ー222

 和也がふと人の気配に気づき、病室のドアの向こうに何かを感じる。視線をそちらに向けると、ドア付近に誰かがいるようだ。ドアにある半透明なガラスの向こうに、影らしきものが見えたからだ。 「誰だ!」  和也は声を上げてドアを開けるが、ドアを開けた頃にはすでに人の気配は完全に消えていた。廊下には数人の看護師や患者、見舞客が歩いているだけで、和也が感じた不審人物の気配はない。ただ、一人の人物の後ろ姿が気になった。むしろ、和也からすれば見覚えのある人物だった。 「今、ここを覗いていた犯人っていうのは、あいつかぁ……本当にしつこい奴だよな……まったく……」  和也は小さな声でそう呟くと、何事もなかったかのような表情でドアを閉め、病室の中へ戻る。 「誰かいたのですか?」  そりゃ、あんな怖い顔をして廊下に顔を出したのだから、気になるところだろう。 「あ、いや……別に何でもねぇよ。ただ、患者さんが通ったのを勘違いしただけだ」  和也はいつもの笑顔で言うが、 「誤魔化すんじゃねぇよ」 「誤魔化さないでくださいよ」  裕実と望がほぼ同時にそう言い、二人とも和也をじっと見上げる。 「……ったく、お前らなぁ」  和也はため息を吐き、 「マジでなんでもないんだって……」 「……って言いますけどね。僕だって和也さんとほぼ同じ位置にいたんですよ。病室のドアの向こうに人影があったのを知ってたんですからね」 「それに、無理して笑顔を見せてたってことは、何かを誤魔化しているってことだろ?俺は何年お前といると思ってんだ?」  二人の言葉に、もう誤魔化せないと思ったのか、和也はひと息吐くと、 「ったく……お前らの前ではホント嘘なんか吐けねぇよな。分かった、言うよ」  和也は降参したかのような口振りでそう言った。

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