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ー雪山ー223

「だからさぁ、ドアの向こうに立ってた人物は、昨日山小屋で話してた奴だったってわけ。俺が見た時点では、病院の廊下を走らずに見舞客を装って歩いて行ったって感じだったけどな。病院って、走っちゃいけない場所だし、走ったら不自然だろ?だから、歩いて去って行ったんだろうけど、でも俺的には、あの長身が忘れられないんだよ。逆に言えば、長身って少ないわけだろ?俺が思いつく長身の奴って、雄介とその男しかいないしさ。だから、アイツかな?って思ったんだよ」 「じゃあ、やっぱり、その人はまだ和也さんのこと、諦めてないってことになるんじゃないんですかね?」 「みたいだよな……」 「何、他人事みたいに言ってるんですかー?」 「あのなぁ、これは俺の問題だって言ってんだろ?俺が何とかするから、信じてくれよ!」  和也は裕実の肩を両手で掴み、彼の瞳をじっと見つめる。 「あのなぁ、昨日も話しただろ? お前の方こそ、俺たちのこと信じてくれてねぇってことなんじゃねぇのか? 信じてねぇから、自分で解決しようとしてるんじゃねぇのか? 頼ってねぇからこそ、自分しか信じられないんじゃねぇのか? 今はかっこつけるところじゃねぇんだよ……仲間や恋人を頼って、信じろって言ってんの。本当にこの問題、お前一人で解決できると思ってんのか? ある意味、アイツはお前が一人になるのを待って話しようとしてるんじゃねぇのか? それなら、尚更お前を一人にさせられるわけがねぇだろうが……」  望を敵に回すとはこういうことなのだろうか。裕実もそうだが、望もまた、言葉に説得力がある。そして、返す言葉が見つからない。和也は、なぜ今まで近くに仲間がいたのに気づかなかったんだろう?と改めて考えるが、和也の問題はそれだけではない。  仲間を傷つけたくない気持ちもある。  アイツはまだ動き出したばかりだ。どんな人物かさえも、今のところ分からない。これから和也にどんな仕掛けをしてくるのかも分かっていない人物だ。  まだ自分たちは傷つけられていないが、全く何も分かっていない人物でもある。  分かっているのは、以前、春坂病院に入院していて、他の病院の医師で和也を引き抜こうとしているという人物しか分かっていないということだ。  これからの物語に、この新城颯斗という人物がキーワードになってくるのだろう。 【ー雪山ー】END NEXT→ー波乱ー

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