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ー波乱ー9
その颯斗の言葉に反応した二人。
ロッカールームの方に向かっていた和也が、上半身の洋服を脱いだまま出てきた。そして大きな声で、
「今、なんて言った!?」
「もし僕がこの病院で正式に採用された場合、本宮さんと一緒にコンビを組んで働いて欲しいと言われているんだけど。さすがに、そこは梅沢さんが気に入らないようだね」
「当たり前じゃねぇか! 裕実は俺の恋人だぞ! お前と一緒に組まれてたまるかっ!」
「だけど、そこは院長命令なんだから仕方ないんじゃないかな? それに、たとえ僕と本宮さんがコンビを組まなくても、僕のレベルについてこれるのは、本宮さんか梅沢さんくらいしかいないと思うんだけどね」
和也はその言葉を聞くと、奥歯を噛み締め、再びロッカールームの方へと消えていった。
朝から、この部屋には電流のような張り詰めた雰囲気が漂っている。今回来た颯斗のせいなのは間違いない。だが、前回スーパーで会った時には、和也のことが好きだからと別の病院に引き抜こうとしていたはずなのに、どうして颯斗はこの病院に来たのだろうか。そこは未だに謎だが、少なくとも朝から良い雰囲気ではないことは確かだ。
和也と望なら、いつも通り穏やかでくだらない話で盛り上がっていたかもしれないが、颯斗のせいで今はそんな穏やかさが感じられない。
三人は用意を終えると、診察室の方へと向かった。
望も和也も、颯斗にはいい記憶がない。だからなのか、本当に私語はなく、業務的な言葉しか口にしないようだ。
診察室に入ってからも、三人の間にはピリピリとした空気が流れていた。いや、颯斗自身はそんな空気を作っていないのだが、和也や望がそのような雰囲気にしてしまっているのだろう。
普段から通っている患者たちは、和也と望の変化に気づいてしまったらしい。普段なら気楽に話しかけてくる患者たちも、いつもとは違う空気に押され、何も話さずに帰ってしまうことが続いている。
挙句の果てには、他の患者から「今日の先生たち、顔が強張っていますよ」とまで言われてしまう始末だ。
その場を何とか誤魔化しつつ、望は颯斗に向かって言った。
「とりあえず、お前の実力を見せてもらいたいから、次の患者さんは新城先生に任せることにするよ」
さすがの望も、颯斗には敬語を使いたくないらしいが、仕事上仕方がないと思っているのかもしれない。仕事は仕事、プライベートはプライベートだからだ。
「分かりましたよ……吉良先生」
颯斗はそう答えると、いつも望が座っている椅子に腰を下ろした。
颯斗は望並みに完璧な仕事をこなしており、それが余計に腹立たしいのかもしれない。それに、ルックスも良い。女性の患者たちが颯斗の笑顔にやられている様子を見ていると、なおさら苛立ちが募る。
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