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ー波乱ー19

「私……いつも貴方を見るたびにドキドキしていました。多分、貴方みたいな人なら恋人の一人や二人いるかもしれませんが、もし、いないのであれば、私と付き合っていただけないでしょうか?」  その女性の言葉は完全に告白と受け取れるもので、和也も望も思わず体が固まってしまった。  しかも和也にはすでに裕実という恋人がいる。フリーでもないし、もう女性に興味はない。しかし、入院患者である女性から告白されるとなると、本当に断りづらい。  上手く断ることができない和也は、困惑し、焦りを感じた表情を浮かべていた。 「いきなりのことでお困りですよね? でも、私は何度も梅沢さんのことを見てたんです! 検温の時、私にだけ笑顔を見せてくださったり、梅沢さんは私の担当でもないのに、私がまだ上手く立てない時に廊下で声を掛けてくださったり、手を差し伸べてくださったりして、その温かさを今でも忘れられません。私の方は、貴方無しではもう生きていけないかもしれません。それくらい、私は貴方のことが好きなんです」  きっと、この女性は思い悩んだ末に和也に告白してきたのだろう。  しかし、和也には恋人がいる。だからここではっきりと断らなければならないのかもしれない。  和也はその女性の言葉を受けて、頭を俯けて考えていたが、突然顔を上げると、 「すみません!」  と頭を下げて、 「暫くの間、お待ちいただけないでしょうか? 確かに、貴方は私のことを知っておられるのかもしれませんが、僕は貴方のことを知りません。だから、暫くの間、私が貴方のことを見させていただけないでしょうか? 今すぐにお答えを求められるのであれば、私の方からお断りさせていただきます」 「ですよね……。分かりました。暫くの間、私は貴方からの答えをお待ちすることにします。いいお返事を待っていますね……」  そう言って、その女性は暫くの間握っていた和也の手を離した。 「失礼ですが……お名前の方は?」 「あら、私ってば、名乗らずに話してしまっていましたね。私の名前は永田ヒロミです」  その名前を聞いて、和也と望は体をピタリと止めた。

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