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ー波乱ー31

「それは……なんやねん。たまには望の本当の気持ちを聞きたくなる時もあるんやで……」 「分かってるよ……でも、俺がそれを上手く言えねぇのを、お前、よく知ってんだろうが」 「そりゃ、もちろん分かってんねんけど……ほな、もし俺が望に対して愛の言葉を言わなくなったら、どうするん? 不安にはなるやろ?」  その雄介の質問に対して、望はもう逃げ切れないと思ったのだろう。 「だからそれは……お前と……キスしたいに決まってるだろ? したくないなんて思ったことは一度もないんだからな」  そう、望はあまりにも恥ずかしい言葉に顔を俯けながらも答える。  それを聞いた雄介は、やっと安心できたのか、食事を口にする。  その姿を見た望は、顔を赤くしながらも椅子から立ち上がり、 「アイツらにわざわざ二人きりにさせられたんだ……その好意を無駄にしちゃいけねぇよな? 雄介……箸貸せよ……」  と、相変わらずだが、最後の方はぶっきら棒に言う。  だが雄介はその望の行動に驚いてしまっているようで、体を固まらせ、望を見上げている。 「ちょ、え? あ、あー、流石に……それは……ええかな?」  その望の行動に動揺しているのか、焦ったような口調で言いながら、望の視線にも合わせられない雄介。 「たまには甘えろよ……いいや……今日だけ特別に甘えさせてやるんだからな……俺がこういうこと滅多にしないのは、お前も知ってるだろ? だから、俺の気分が変わる前に箸渡せよな」  そう言っても、雄介は渡そうとしない。しかし、望は焦ったのか、雄介から箸を奪い取るようにして手にすると、その白くて綺麗な手で箸を使い、ご飯を掴んで雄介の口元へと運ぶ。 「どうだ? 美味いか?」  望にそう聞かれても、分かるわけがない。嬉しすぎる望の行動で、口の中がいつも以上に甘くなっているのだから、味なんて分かっていない。  だが、あの望が食べさせてくれているのだから、ここは何か言わなければならないだろう。 「ん……ほんま、望が食べさせてくれたから、美味いに決まっておるやないか。最高な気分や……望にご飯を食べさせてもらうなんてな」 「なら、良かったよ」  望はそう言うと、次はおかずを掴み、再び雄介の口元へと運んでいく。  雄介はそれをまた嬉しそうに口にし、望に食べさせてもらった料理を全部口にするのだった。

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