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ー波乱ー33

 すると無情にも面会時間終了の鐘が鳴り響く。  その直後、望は聞こえるか聞こえないかの小さな声で、 「今日……泊まってっていいか?」  そう言った。 「へ? え? 今なんか言うたか? もう一度言うてくれへん?」 「だからさ……今日は泊まってっていいか? って……」  ここ二週間ほどで、望は変わってきたのだろうか。と思うくらいの変化だったかもしれない。前よりもより素直になった気がする。 「俺が嫌だって言うわけないやろ? 望が泊まりたいって言うんやったら、泊まってもええで……」 「ああ、うん、そうだな……」  望はいつも掛けている眼鏡を外し、ベッドサイドにあるテーブルへとその眼鏡を置くと、自ら雄介の肩に腕を回す。 「い、いきなりどうしたん? さっきからいつもとちゃうような気がすんねんけど……」 「たまには俺の方からこうしたい時だってあるんだよ。俺が今までどれだけ気を使ってたか、分かるかぁ!? どれだけお前に会いたかったかっていうのも分かるか!?」  普段の望では口にしないようなことを口にしている。  雄介はまだそんな望を疑っているようにも思える。雄介からしてみれば、素直じゃない方の望のほうがしっくりきているからかもしれない。  だからなのか、雄介はふとあることを思い出し、望の額に手を当ててみる。 「やっぱ、平熱って感じやな……」  首を傾げる雄介。望は記憶喪失の後遺症から、体に熱があると素直になることを知っている。しかし、平熱であるならば、逆に言えば望本人が本気で言っているということになる。 「なんかなー? 急にそういうのって嬉しい感じがするわぁ。望にやっと俺の存在を認められたって感じがするしな」  雄介はいつも以上に望を愛おしそうに見つめ、抱きしめる。 「ホンマ……温もりってええもんなんやな。俺さ、今まで仕事で死ぬ思いとかいっぱいしてきたけど、望とおる限り……無駄にしたくない命になってきたわぁ。俺は望と一緒におる限り、絶対に死なへんからな……絶対に望を悲しませるようなことしたぁないし」  雄介は今まで心の中に閉まっておいた思いを望に打ち明ける。  望はその雄介の告白に頷く。 「雄介……大人しくしてろよ」  突然、望から命令されて動きを止める雄介。 「へ? 何!?」 「いいから……」  雄介の動きが完全に止まると、望は先ほどと同じように自ら雄介に唇を重ねる。  望からのキスに、雄介は今まで以上に幸せな気分になり、望を笑顔で見つめる。また、望の方もそれに応えるように雄介を笑顔で見つめ返すのだった。

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