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ー波乱ー34

 そんな甘い時間の中、先程は面会時間を告げる鐘が鳴ったのだが、今度は消灯時間になったのか、廊下以外の電気が消え始めた。  病室内は天井に近い窓から漏れる廊下の電気だけが僅かな明るさを提供しており、今はそれだけしか光がない。  そんな中でも二人の間には、病室の暗さ以上に甘い雰囲気が漂っていた。逆に、その暗さを利用して、甘さが増していくようだ。  望は一旦、スーツの上着をハンガーに掛けに行ったが、再び雄介のところへ戻ってくると、彼をベッドの上に押し倒し、そのまま雄介のお腹の上に乗って再び唇を重ねた。  雄介もその望の行動に応えるように、望の腰辺りに手を添え、さらに体を密着させ、何度も何度もキスを繰り返す。  やはり恋人同士のキスは長く、そして甘いもので、逆に仕掛けた望の方が息を上げてしまっていた。  しかも、久しぶりの恋人との温もりのせいか、体の中から何かが疼いてきているようで、熱くなっている。顔を赤くしてしまった望は、それを雄介に気付かれたくないため、雄介の胸の辺りに顔を埋め、彼の病院着をギュッと握り締める。  そんな望の様子に、雄介が気付かないわけがないだろう。 「どないしたん? 望?」 「な、何でもねぇよ……」  望が急に苦しそうな声を上げたので、雄介は心配になったのか、 「そないに苦しそうな声をあげられたら、誰でも心配になるやんかぁ」  と心配そうな声で言い、眉間に皺を寄せながら、望の様子を覗き込むようにして見つめた。 「何でもねぇって言ってんだろ!!」  そんな切羽詰まったような声に、雄介の方が困ったような様子で望を見上げる。 「ホンマに大丈夫なんか? 何か隠してへん? 隠してへんのやったら、俺の顔見て言えんやろ?」  未だに心配そうに言う雄介に対し、望は真っ赤になった顔を雄介に向けながら、 「お前、それわざと聞いてるんだったら、俺、マジ帰るからなっ!」  そう言うと、望は雄介のベッドからいそいそと降り、自分の鞄や上着を取り、病室を出て行こうとした。  そんな望に雄介は、 「今、望の顔見て、やっと望が言いたい事が分かったわぁ。スマンな……最近の俺は、本当に望が側におるだけで満足しておったから、忘れておったんやけどな……まぁ、その怪我もしておったし、そういう気にはなってなかったっていうんかな? それに、担当医さんからも体動かしてええっていう許可も出てなかったし。だから、無意識にそんな気にならへんようにしておったのかもしれへんな。なぁ、俺の担当医である望が体動かしていいっていう許可出してくれるんやったら、俺の方は構へんで……」

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