845 / 1491
ー波乱ー51
今まで怒りの頂点に達していたその女性だったが、和也の言葉に仕方なさそうに息を吐いた。
そんな女性に、和也は再び、
「本当に申し訳ございませんでした……」
もう一度頭を下げる和也。しかし、その直後、和也の視界に恋人である裕実の姿が入った。
たくさんのギャラリーの中にいた裕実は、和也と視線が合った瞬間、その場を立ち去るように走り出した。
そんな裕実の姿を見た和也は、頭を掻きながら顔を俯ける。和也は、きっと裕実の行動に何かを感じたのだろう。もし自分が同じ状況を見てしまったら、嫉妬するに決まっている。
軽く息を吐いた和也は、その女性に向かって、
「では……また、機会がありましたら……」
「そうですね……」
そう言って、和也は女性との話を終え、笑顔を向ける。だが、その直後、和也の耳に僅かだが裕実の悲鳴のような声が聞こえた気がした。それに反応した和也は、急に目の色を変え、ギャラリーの輪の中から急いで抜け出した。
「なんやねん……アイツ……ここまで紳士的な態度をとってたのに、急に走り出してもうたで……」
「ああ、まぁ……そうなんだけどさ。和也的には、あの女性のことはもう完全に振ったわけだから、気にしてないんじゃねぇのか?」
「……にしても、仕事までまだ時間あるやろ? そしたら、あないに急ぐ必要はないんちゃう?」
雄介にそう言われ、望は愛用の腕時計を見る。確かに、まだ時間がある。
裕実のところに行くにしても、この階ではなく、屋上に行っているだろう。病院内で人が少ない場所といえば屋上しかない。二人の休みが重なれば、屋上に行くことを望も知っている。
その頃、和也は裕実の声がした方へ向かっていた。
この病棟は広く、先ほどのエレベーター前から数十メートル先まで病室がある。エレベーター前は騒がしかったが、そこから離れると、こちらの病室は静かだった。
ともだちにシェアしよう!