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ー波乱ー54

「そりゃまぁ、確かにそうやねんけど……。ほな、俺はここで待っておるし、早く様子見てきてぇな……」  雄介はそう言って望に笑顔を向けるが、心配そうな表情はまだ消えていないようだ。 「大丈夫だって、俺はあくまでただの様子見なんだからさ。俺はお前みたく体力的にも精神的にもそんなに強くないんだから、自分から向かっていくようなことはしねぇよ、安心しろって……」 「そう言うってことは? 望も何か危険な感じがしていると思ってるんちゃうん?」 「そうなのかもな……」  望は静かにそう答えると、表情を変え、和也が出てこなくなった病室の前へと向かう。  すでにさっきのギャラリーたちは消え、廊下もいつも通りの静けさを取り戻していた。そこにポツンと残された雄介だけが、廊下で待っている。  望は和也が入っていった病室の前で、その病室にいる患者の名札を見上げる。 「俺はこの患者さんを担当したことがないから、分からないんだけど、きっと和也は知ってるんだろうな」  そう独り言を漏らし、いよいよノックをして入ろうとした途端、中から会話が聞こえてきた。 「この部屋に看護師の本宮さんが来ましたよね?」 「そんな名前の看護師さんなら、さっき隣の病室に行かれましたよ」  どうやら和也はその男性の様子を見ているようだ。人が嘘をつくとき、大抵の場合、相手と視線を合わせないことが多い。だが、この男性は和也の視線をそらすことなく、むしろ真っ直ぐに見据えている。 「そうでしたか、それなら、失礼いたします」  和也は頭を下げてその場を去ろうとしたが、男は和也に向かい、 「貴方……失礼すぎませんか? 言い掛かりをつけておいて、ただ頭を下げるだけですか? 今のは侮辱されたのと同じなのだから、土下座くらいしていったらどうなんです?」  そう告げ、男はデカイ態度で和也を見据える。  さすがはVIP病室と言えるだろう。  VIP病室には、芸能人や社長、政治家などのお偉いさんが休む部屋が多い。そのため、態度も大きくなることがある。  だからこそ、言葉遣いには一般病棟の人たち以上に気を使わなければならない。だが、今の和也は頭に血が上っていたのだろう。いつもの冷静さを欠いているようだった。  しかし、和也にとっては、これまでの推理から裕実がこの部屋にいる可能性が高いと思えてならない。だが、現実には、裕実の姿はまったく見当たらない。  和也は会話をしながら病室内を見渡すが、どうしても裕実がいる気配は感じられないようだ。

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