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ー波乱ー55
VIP専用の病室にはトイレやお風呂も完備されており、入院中はなるべくこの病室から出ないように指示されている。
確かに、そんな有名人が廊下を歩けば、それを知った人々が病室に押しかけて騒ぎになるのは間違いない。さらに、何かしらの理由で入院しているのだから、しっかり休まなければ意味がないからだろう。
「土下座ですか? 僕は全然土下座しても構わないですが、もし、本宮裕実さん……いや、僕の恋人である裕実がこの病室にいた場合、今度は貴方が謝ることになると思います。それでも良いという覚悟があるなら、僕は裕実のために何度でも土下座しますけど……」
和也はそう言って、真剣な瞳でその患者を見つめた。
「貴方もしつこい人だなぁ! ここには、もうそんな患者さんはいないって言ってるでしょう? そういう患者に対して言うことを聞けない看護師って、どうなんですかね?」
男はそう言い返してきた。
その男は三十代くらいだろうか。体は細身だが、筋肉がしっかりついており、背も高い。顔はイケメンで、女性にはモテそうなタイプだ。そんなイケメンの顔に眼鏡がかかっており、インテリ風にも見える。
見た目は完全に女性の好みだろう。しかも、ここに入院しているということは金持ちの息子か、既に社長クラスの人物かもしれない。
「貴方もしつこいねぇ。ここにはそんな看護師は来ていないって言ってるでしょう?」
「裕実の看護を待っているのは貴方だけではありません。それに、裕実はまだ仕事中です。早く、裕実を返してください……皆さんのためにも、僕のためにも」
「本当に失礼な人だなぁ。その言い方だと、その看護師がこの病室にいることを前提に話しているように聞こえますが、証拠はあるんですか?」
そこまで言われると、和也は返す言葉がなかった。確かにその男の言う通りだ。和也にはそんな証拠があるわけではない。ただ、和也の勘がそう告げているだけなのだ。
だが、今まで和也の勘が外れたことはなかった。
確かに、勘だけでは証拠にはならない。
和也はとりあえず、あの男から裕実を出させる方法を探す。
その時、男が寝ている布団が急に盛り上がり、布団の中からくぐもった声が聞こえてきた。
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