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ー波乱ー76

 相変わらず冷たい言い草だが、望も和也同様に幸せな時を過ごしたのだろうと、和也も感じているのかもしれない。 「なら、いいか……」  と、今日の和也は途中で話を止め、笑顔で窓の外を眺めた。  逆に、その和也の行動や言葉に拍子抜けしてしまったのは望の方かもしれない。いつもの和也なら、これ以上突っ込んでくるのは間違いないからだ。  この変化に、さすがの望も気付く。  だが、そこには突っ込めない望。  次の瞬間、和也は望に違う話を振ってくる。 「なぁ、新城の奴、今日は遅くねぇか?」 「ああ、そうだな……」  二人がそう噂していると、颯斗が慌てて部屋に入ってきた。 「遅くなりました!」 「ああ、うん。まぁ、時間内だからいいんだけどさ。それにしても、いつもより遅いのは珍しいよな?」 「ああ、はい……まぁ……ちょっと……」  颯斗はそう意味ありげに言いながら、ロッカールームへと消えていく。 「な……」 「ああ、和也が言おうとしてることはわかってる……」  二人は、颯斗に聞こえないような小さな声で顔を近づけ、話し始める。 「まず、あいつがいつもの時間に来なかったことと、望の言葉に言い淀んでいたってことだろ?」 「ああ、そういうことだ……」 「朝から、あいつに何があったんだろうな?」  和也は腕を組んで考えてみるものの、わかるはずもなく、白衣だけを身にまとった颯斗はもうロッカールームから出てきていた。 「何を梅沢さんは考えていらっしゃるのですか?」 「え?お前には関係ないことだけど……」 「そうですか。まぁ、多分、今日、私が来るのが遅かったことなんでしょうけどね……」  そう自信ありげに颯斗はクスクスと笑っている。  その颯斗の声にドキリとしたのは和也と望だ。今話していた颯斗が目の前にいるからだ。 「じゃあ、私が今日ここに遅れてきた理由を教えてあげましょうか?」  そう自ら口にする颯斗に、和也と望は目を丸くする。  聞きたいような、自分たちで答えを見つけたいような衝動に駆られるが、やはり颯斗がそう言っているのだから、素直に聞いたほうがいいのかもしれない。  和也と望はほぼ同時に視線を合わせ、頷き、 「じゃあ、聞かせてくれよ……お前が遅れてきた理由をさ……」 「では、教えてあげましょうか?」  颯斗は口元を上げて意味ありげに微笑むと、口を開いた。

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