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ー波乱ー82

 先程までの怒りはどこに行ってしまったのだろうか? 望はその雄介の言葉に納得してしまっていた。  望の場合、きっと裕二のことをただ鬱陶しいとしか思っていなかったため、雄介のような考え方は出てこなかったのだろう。  暫くして望の家に辿り着くと、 「ホンマに久しぶりな感じやんな!」 「そうだな……」  望は車をガレージに入れながら、 「お前はいつから仕事に復帰するつもりなんだ?」 「せやなぁ? 一週間くらいかな? その間に腹筋とかして体を戻していかんといけないしな……。体を戻していかんと足手まといになってまうし」 「そうだな。この一週間で体を戻して、復帰した方がいいのかもな……」  望は車をちゃんとガレージに入れると、 「ほら、着いたぜ」 「ああ、せやな……」  雄介は先に降りて荷物を取り出し、ちゃんと治った足で大地を踏みしめながら望の家へと向かう。 「良かった……本当に治ったみたいでさ」  望はそう独り言を漏らすと、雄介の後に続いて家の中へと入っていく。  雄介は荷物をリビングのソファの上に置くと、 「久しぶりやし、俺が何か作ったろうか?」 「ああ、そうだな……よろしく頼むわぁ。俺はその間に風呂に入ってきちまうからさ」 「せやな……」  雄介は望の部屋へ向かい、自分愛用の黒色のエプロンをして出てくる。そして鼻歌を歌いながら冷蔵庫の中をチェックし、久しぶりに料理を作り始める。  もうすぐ冬が終わるこの季節。昼間は気温が暖かいこともあって、窓を開けていると風がカーテンを揺らし、暖かい風がキッチンでリズムよく包丁を使う雄介の髪を揺らす。  約一ヶ月間、雄介はキッチンに立って料理をしていなかったが、雄介の場合、頭ではなく体が覚えているのだろう。一ヶ月前と変わらないリズムで料理を作っていた。  望はお風呂から上がると、わざと髪を拭かずにリビングテーブルの方へ腰掛け、視界に入る雄介の姿を眺める。雄介が幸せそうに料理をしている姿を見つめているのだ。  本来なら、今日退院したばかりの雄介に料理をさせるべきではないのかもしれないが、望も雄介も気持ちは同じなのだろう。  雄介は望のために料理をしたいという思い、望は久しぶりに雄介の料理が食べたいという気持ちがあるのかもしれない。

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