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ー波乱ー129

 和也は着替えて出てくると、まだ考え事をしている望の姿が目に入った。 「まだ考えてるのか? 仕事なんだから、それは後にしておけよ」  その言葉に、望は立ち上がり、 「お前に俺の気持ちが分かるのかよ!? あんな朝からヒシヒシと殺気を感じたんだ。さすがに今回のことは、俺だって恐怖を感じたくらいなんだぞ!」  望は今にも和也に飛びかかりそうな勢いで、和也の顔に顔を近づけた。 「分かるよ……でも、今は……」 「何が分かってるだぁ!? 全然分かってねぇじゃねぇか! 俺の気持ちなんかこれっぽっちも分かってねぇよ!」  望はそう吐き捨てるように言うと、ロッカーの方へ足を向けた。 「ありゃ、本当だな。しかし、誰が望にそんなことをしてるんだ?」  和也も、望が嘘をついていないことが分かったのか、頬を叩いて自分に気合いを入れる。  もともと、望は嘘をつくタイプではないが、朝からあのように殺気を感じさせるほど、誰かが望を待ち伏せしていたという人物が気になるところだ。  望は着替え終えると、今日は午前中の診察だけで、午後からは手術が入っていた。  その手術が終わったのは午後九時。  望と和也が部屋に戻ると、部屋の中が荒らされていた。  幸い、財布は鍵付きのロッカーに入っていたため無事だったが、荒らされていたのは本棚や机の上だったらしい。  確かに、望は朝「誰かに狙われている」と言っていた。和也の中ではその話が半信半疑だったかもしれないが、今この状況を見て確信に変わってきた。 「望……?」 「あ、ああ……やっぱり、そうだったんだよな。俺の気のせいじゃなかったんだよな?」 「ああ……」  和也は部屋に入ると、誰か他にいないか確認して回った。お風呂場、ロッカールーム、そして寝室と見て回り、とりあえず室内には誰もいないことを確認すると、ホッとした表情を見せた。 「これ、警察に被害届を出すか?」  望も部屋に入り、机の近くで散乱しているものを片付けながら、 「いや、警察に連絡したら大事になるかもしれない。それに、何か取られたわけじゃないし、ただ荒らされただけじゃ警察も動いてくれねぇだろ? 今の警察はさ、何かないと動いてくれねぇからな。こっちが怖い思いをしたってだけじゃ、動いてくれないだろ? 親父にも病院にも迷惑が掛かるし、しばらく様子を見ることにするよ」  望は片付けを終えると、ロッカールームに向かい、携帯を開く。  雄介からのメールが届いていたが、どうやら望の家では何もなかったらしい。もし何かあれば、きっと雄介は何かしら知らせてくれるはずだ。望はそのことに安心した。

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