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ー波乱ー136

 ようやく和也は病院の駐車場に着くと、車から降りてすぐに望が車を停めている場所へ向かった。しかし、望の車はあるものの、望の姿はなかった。 「やっぱり、遅く来ちまったから先に行ったのかな?」  和也はそう独り言を呟き、病院の方へ足を向ける。その先に見えたのは、背の高い男が透明な傘を差して佇んでいる姿だった。  和也はその姿を見て、すぐに誰なのか分かったらしい。  この病院で背の高い男性と言えば、あの男しかいないからだ。  そう、和也のことを狙っている新城颯斗以外には考えられなかった。  それでも和也は颯斗に向かって何気なく声をかけてみた。 「なーんだ? 仕事が終わったっていうのに、俺でも待ち伏せしてたのか?」 「あ、梅沢さんでしたか? 違いますよ。ただ、僕の車の前に携帯が落ちてたんで、誰のかな? って思いましてね。多分、ここにあるっていうことは職員の誰かのだと思うのですけど……梅沢さん、これ誰のだか分かりますか?」  そう颯斗は言うと、その携帯を和也に見せた。  携帯の色は白で、ストラップも付いていないシンプルな物だった。  和也は颯斗の手の中にある携帯を見つめると、みるみるうちに表情を変え、 「え? ま、まさか!? 望じゃねぇだろうな?」 「吉良先生のですか?」 「ちょ、いいからその携帯を貸してみろ! 悪いが中身を見せてもらうからさ」  和也は焦った様子でそう言うと、颯斗からその携帯を奪うようにして開いた。その携帯は雨に濡れても起動していた。きっと和也のものとは違い、防水仕様なのだろう。  和也は焦りながらも、携帯の中に入っている電話帳やメール履歴を確認してみた。やはりそれは望の携帯だと分かった。  メールのやり取りは主に雄介とのものが多く、あの望を想像すると信じられないほどラブラブなやり取りがされていた。さらに、発信履歴には先程、望が和也に連絡していた記録が残っていたので、望の携帯であることに間違いはなかった。 「この携帯は間違いなく望のだよ……」 「でも、どうして僕の車の近くに!?」 「俺にそんなこと聞かれたって分かるわけねぇだろ!」  和也は半分八つ当たりのように言った。  とりあえず、和也は望の携帯を一旦閉じると、急いで部屋の方へと走り出した。  そう、ただ望が携帯を落としただけなら……と思いながら。

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