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ー波乱ー138

 和也は、そのドアの前で乱れてしまったスーツを一旦整え、息を整えた。だが、濡れてしまったスーツはそのままだった。  そして、ドアを丁寧に二回ほどノックすると、中から低い男性の声で、 「はい……どなた様でしょうか?」  という声が聞こえてきた。  いつもは不在のことが多い人物だったが、和也はとりあえず在室であることに安心し、もう一度呼吸を整えると、 「失礼します」  と言ってドアを開けた。  その部屋の人物は椅子に座ってパソコン画面を眺めていた。  和也は顔を上げると、すぐに正座をして頭を下げる。 「望が……いや、吉良先生が……」  和也は静かに言葉を続けようとしたが、椅子に座っていた人物は急に立ち上がり、静かな声で、 「君が言いたいことは分かっているよ……」  と冷静な感じで和也に話しかけた。  その言葉に、和也は驚いたような顔をしながら見上げた。 「どうやら、望が誘拐されてしまったようだね。今さっき、私のパソコンに犯人らしき人物からメールが来ていた。それにはこう書かれていたんだ。『あなたの息子を誘拐した。息子の命が惜しければ、二億円用意しろ』とね……」  和也はその人物の言葉に驚いて立ち上がると、 「じゃあ、なんで焦っていないんですか!? 院長の息子さんが誘拐されたんですよ!」  裕二はその和也の言葉にひと息吐くと、 「慌てても仕方がないだろう? ここで慌てたところで、息子がすぐに戻ってくるというわけではないのだから」 「確かにそうですけど……」  さすがは望の父親というべきか、和也はその説得力に言葉を失ってしまった。  それに、目の前にいる人物はこの病院の院長で、普段ならそう簡単には話すことができない相手なのだ。  二人の間に急に沈黙が流れる。  そのためか、窓に雨粒が叩きつける音がやけに大きく聞こえる。  そんな時、院長室のドアをノックする人物が現れた。  その音に反応して、和也は振り返る。 「失礼します……」  と言って入ってきたのは、颯斗と裕実だった。 「ちょ、お前たち、その格好は!? 昨日は夜勤で帰ったんじゃなかったのか?」  そう、二人は昨日は夜勤で、今日は休みのはずだったが、再び白衣を着て院長室に来たのだろうか? 「梅沢さん……今日は僕たちが診察を代わりますよ。だから、梅沢さんは吉良先生を助けることに専念してください。そんな状態では、患者さんの診察はできないと思いましたから」 「そうですよ! さっき僕の方は新城先生から電話をもらって、慌てて来たんです。僕たちのことは心配しないでください。和也さんは望さんのことをお願いします! 事情は新城先生から聞きましたから」

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