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ー波乱ー141

 和也は、窓の外を流れる景色を眺めながら、今までのことを考えていた。  さっきの犯人のメールからすると、犯人が複数いることが分かったような気がする。メールを送ってきた犯人と、夏見駅に金を取りに来る犯人。  この時点で、最低でも望の誘拐事件に関わっている犯人は二人いるということだろう。  今まで自分たちは、犯人が内部犯か外部犯かを考えていた。しかし、これではどちらの可能性もあり得る。  でも、主犯格のような人物は内部犯かもしれない。  和也はふと、裕二の横顔を見る。  やはり急いでいる時に渋滞に引っかかるのは、イライラするのかもしれない。  普通の表情に見えるが、裕二は奥歯を噛みしめているようにも見える。 「すまんが……タバコを吸ってもいいかな?」  そう聞いてくる裕二。 「大丈夫ですよ……僕、以前は望と一緒にタバコを吸ってましたからね。望もたまにですが、吸ってましたし……まぁ、それと、望とは何かといろいろあったんですよ」  和也は、裕二に向かって、なぜか聞かれてもいないことを口走ってしまった。  そう言いながら、流れる景色を眺める。  東京という場所は、本当にビルばかりだ。人間は歴史の中でどんなことを学んできたのだろう。人類が誕生した当初は、将来こんなビルが立つとは思っていなかっただろう。しかし、それだけではない。人間が作り上げてきた歴史は、様々なジャンルで満ちている。そして、人々も進化してきたからこそ、次々と新しい歴史が生まれていくのだ。  裕二はポケットからタバコとジッポライターを取り出すと、窓を開けて、煙を外へ吐き出した。 「ん? 望と君の間で、何があったんだい?……まぁ、望がタバコを吸ったことがあるなんて知らなかったけどね」  その口調から、裕二は望がタバコを吸っていたことを知らなかったようだ。  和也は急に慌てたように、 「あ、でも……! 一日一本くらいでしたし……! 今は雄介のおかげで吸っていないようですしね!」  その和也の慌てぶりに、裕二はくすっと笑って、 「別に、望がタバコを吸っていようが、私には関係ないよ……もう大人なんだからね」 「はぁ……まぁ……確かにそうですよね」  そう言って、和也は少しホッとした様子でシートに体を預けた。 「……で、望とは何があったのかな?」  裕二は突然、和也に向けて質問を投げかけてきた。どうやら、裕二の本当の目的はそっちのようだ。  和也は一つため息をつくと、どうも裕二には嘘はつけないと思ったのか、これまでのことを話し始めた。  裕二と和也が初めて会ったのは、あの震災の時だ。それ以前のことは、裕二は望のことを知らないらしい。

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