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ー波乱ー143

「院長! 犯人からのメールはパソコンにしか来ないんですか!? 院長の携帯の方にはメール来ないんですよね?」 「まぁ、今はパソコンにだけだよね?」 「……ってことはですよ。僕たちは当たり前のことを忘れてませんか? まぁ、今まで自分たちが冷静になれてなかったからなのかもしれませんがね」  裕二はそう言う和也の方を首を傾げて見上げている。どうやら今、和也が言いたいことが裕二には分かっていないようだ。 「つまりですね。今回の犯行は内部犯の可能性が高いってことなんです。ウチのスタッフなら、みんな院長のパソコンのメールアドレスを知ってるってわけですよね? 何か報告したいときに院長にすぐに報告できるようにです。そして、犯人が院長のパソコンのアドレスしか知らないということは、そういうことなんだと思いますよ。まぁ、さすがに自分のアドレスの方はどこか外国のサーバーでも使っているんだと思いますから、そこから割り出すのは不可能なのかもしれませんけどね。だから、犯人は『警察に連絡するな!』とでも言ったのかもしれませんよ。だって、警察に持っていけば、もしかしたら、その犯人のメールアドレスから犯人が誰なのか、分かってしまいますからね」  裕二はどうやら和也が言っていることを理解したようだ。 「それと、内部犯なのかもしれないと思った要素がたくさんあるんですよ。さっき、望が狙われた頃の話をしましたよね? そのときに確認したことがあったんです。部屋の外にある廊下に取り付けられている防犯カメラのことです。それが何者かの手によって、廊下とは反対方向を向いていたんですよ。それを簡単に動かせる犯人って、スタッフだけな感じがしませんか?」 「なるほど、それならスタッフの中に犯人がいるという線が濃くなってきたね」  裕二はそれを聞いて、和也に手を顎に当てて考えているようだ。 「あ! あと……僕の知り合いで警察関係者がいるんですけど、確か……あいつ……ネットに詳しかったはず!」 「梅沢君……それはさすがに犯人との約束とは違う風になってしまうと思うけど」 「大丈夫です! あいつには病院の関係者のように白衣を着て院長室に入ってもらいますから」  そう和也は笑顔でポケットに入っている携帯を取り出すのだが、 「あー! 忘れてたー! 俺の携帯、朝水没しちまってたんだー!」  そんな風に言っている和也に対し、裕二はそんな和也を笑っているようだ。 「君って、仕事では真面目みたいだけど、普段はどこか抜けてるところがあるみたいだね」  裕二は、たった三十分ほど和也と一緒にいる中で、どうやら和也の性格を見抜いたようだ。

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