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ー波乱ー145

「君にはまだ……子供が生まれていないから分からないのかもしれないけど、親というのはどんな子でも守りたいと思うものなんだ。どんなにできない子でも、自分の夢や子供の夢を叶えさせたいと思うものなのだよ。それに、早く一人前になってほしいともね。ウチの病院には跡を継ぎたいという者はたくさんいるみたいだけど、やはり私としては息子に後を継いでもらいたいと思っているからね。私がまだ現役でやっていられる間は院長の席は譲ることはしないよ。それに、息子たちに後継者になってもらうつもりだしね。私の遺伝子を継いでいる者なら、考え方も同じだし、今の方針のままで行ってくれそうだからね。もし、望以外の誰かにやってもらうとしたら、きっと今の方針とは違うことになってしまうと思うよ。そうなれば、今まで私が培ってきたものが崩れてしまうかもしれないからね。息子だからこそ、私の意思を受け継いでくれると思っているんだ」 「望なら、きっと院長の意思を受け継いでくれると思いますよ! 望はああいう性格だから誰にも素直になれないけど、でも、最近では望の恋人である雄介にはだいぶ素直になってきたみたいですけどね」  裕二はその和也の言葉に少し遠い目をすると、口を開く。 「今、望の母親はまだアメリカにいるんだけどね。まぁ、そこのところは後にして……。望は私の息子だけあって、頭のほうは良かったみたいだよね。小学校の時から成績は学年のトップだったんだけど、私はそのことについて一度も褒めたことがなかった。そう、ウチの家系はみんな医者をしてきたから、逆に言えば当たり前なことだったからね……だからなのかな? あの子は私には素直にならなくなってしまった。多分、頭のいい子だったから、『親父に言っても褒めてもらえない』とでも思って心を閉ざしてしまったのかもしれないよね? だから、素直になることを辞めてしまった。でも、息子は息子なのだから、大学に入ってからは甘やかしてしまったんだ……大学時代は色々と私生活の方でもお金がかかる時期だと思うから、事あるごとにお金を振り込んでしまっていたんだよね。でも、息子のほうはこう素直に感謝の気持ちはなかったのかもしれない。そう、私が教えてしまったように、息子もそれを『当たり前』と思ったのかもしれない。でも、雄介君って言ったかな? 望の恋人である雄介君と出会って、望は良かったんだと思うよ。本当は親の私がやらなきゃいけないことを、彼がやってくれたのだからね」  それを聞いて和也は納得したようだ。 「それ……実は僕にもできなかったことなんですよ。そうか……僕に足りなかった部分ってそこだったんですね。雄介にはそれができたっていうことなのかな?」

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