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ー波乱ー147

「そうだね……ありがとう。やっぱり、君がいてくれて助かったよ。誰もいなかったら、私も動けなかったかもしれないからね」  和也はその裕二の言葉に頷いた。  裕二だって人間だ。平静を装っていても、心の中ではかなり動揺しているのだろう。 「院長! 誰かバイク持ってませんかね? バイクだったら間に合うかもしれませんよ」 「バイク……? それなら、一応、私のがあるかな?」 「なら、それで次の場所まで行きましょう!」 「ああ!」  二人はアイコンタクトをし、頷くと、さっきと同じように鞄にお金を詰め、裕二が持っているというバイクのところへ急いだ。 「バイクという話が出てきたということは、君もバイク持ってるのかな?」  裕二は駐輪場へ到着すると、和也へヘルメットを投げ渡した。 「はい、持ってますよ。今はあまり使ってないので、マンションの駐車場に置きっ放しですけどね」  裕二は和也の言葉に微笑むと、和也をバイクの後ろに乗せ、渋滞している中をすり抜けながら目的地へ向かう。  確かに和也の言う通り、バイクなら十五分ギリギリで到着することができた。ただ、犯人が指定したトイレに間に合うかが問題だった。  裕二は和也にバイクを預け、諦めずに地下にあるトイレへ向かった。  そして、そのトイレの奥にある個室に鞄を置き、すぐにそこを立ち去り、和也が待っている場所へ急いだ。  だが、裕二が地上へ上がってきた直後、今バイクで走ってきた方角から何やら爆発音のようなものが聞こえてきた。 「……まさか!?」  裕二と和也は一瞬視線を合わせると、再びバイクを走らせ、爆発音が聞こえた場所へ急ぐ。  緊急事態とはいえ、裕二が運転しているバイクは緊急車両ではないため、法定速度を守りながら走らなければならない。だが、その和也たちがバイクに乗っている横を、サイレンを鳴らして一台のレスキュー車両が通過していった。  その瞬間、レスキュー車に雄介が乗っている姿が和也には見えたのか、 「雄介!」  と和也は思わず叫んでしまった。  そのレスキュー車には「HARUSAKA RESCUE」と書いてあり、雄介の特別救助隊の車両であることがわかった。だが、この車がたくさん走っている中、サイレンが響く中で和也の声は完全にかき消されてしまったようだ。雄介に和也の声は届かなかったらしい。  それから、雄介が現場に到着して五分後、和也たちのバイクも現場へと到着した。

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