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ー波乱ー149

 最初はなかなか声が聞こえてこなかったが、最後の力を振り絞るような声で、 「ま……さか……そこに……ケホッ! ケホッ! いる……のは……っ……ゆ……ぅ……介……なのか?」 「ああ! そうや!」  その声の持ち主が望だということが分かった雄介は、すぐに笑顔になって、そのコンクリートとコンクリートの間にうまく挟まっている望の方へ視線を向ける。すると自然と視線が合った二人。 「今な……和也にここに望がいるっていうことを聞いて、まだ俺の中では望がここにおるなんてこと、半信半疑やったけど、これで真実やってことが分かったわぁ……まぁ、その名前で俺のこと呼んでくれるのは望と和也しか今はおらんかったしな……それに、声を間違えるわけがないやろ? 望……」 「ああ……」  苦しそうな声ではあるが、そう返事する望。 「もう少しだけ待っててくれへんか? もう少ししたら、この望の上に乗っかってるコンクリートの瓦礫をどけてやるし」  そう明るく言う雄介だが、内心では身内を助けるということに動揺しているのかもしれない。  しかも今日は雄介にとって久しぶりの仕事で、いきなり望のことを救助するとは思っていなかったのだから。  コンクリートをどけるといっても、そう簡単にはいかないようだ。  望の上には相当な量のコンクリートが乗っかっているのだから。  しかし、望はこんな状態でよく生きていたと思う。  雄介は和也の方に走り出すと、 「とりあえず、望はあのコンクリの中で生きとるし、あとは俺らに任せてくれたらええからな」  和也に向かってそう言うと、雄介は望を助けるために大型重機がある所へと走って行く。  雄介はそれを動かして、ゆっくりと、しかし素早く望の上にあるコンクリをどけ始める。  そして十分ほどした頃だろうか? 雄介のおかげで望の上に乗っかっていたコンクリートの瓦礫はきれいに除かれ、そこから先の作業は手作業になった。  何人かでその瓦礫をどけていると、望の背中が見えてきて、望がうつ伏せの状態で埋まっていたのだ。  雄介たちレスキュー隊員は完全に望の上にあったコンクリを除けると、救急隊員を呼び寄せ、望のことを診てもらい応急処置をしているのだが、その救急隊員はなぜか首を振っていた。  まさか望がこのコンクリをどけている間に息絶えてしまったのだろうか? 雄介は望に向かい、手袋を外してそっと手を伸ばす。  望の体が冷たくなっていれば、それは死を意味する。だが、温かければ、温もりがあれば、まだ生きているという証拠でもある。

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