959 / 1491

ー波乱ー158

 和也は望にそう言われて、車椅子を取りに向かう。 「車椅子って、片手じゃ操作するの無理なんじゃねぇ? だからさ、俺が連れて行ってやるよ」  望は車椅子に移動すると、 「平気だから……」  と相変わらずぶっきら棒に答え、片手で車椅子を動かしてみるが、やはり片手ではうまく動かせないようだ。 「あれ? おかしいな? なんでこう、患者さんのようにうまく動かせないのかな?」 「そりゃさ……患者さんの方は慣れてるからなんだよ。望は慣れてないんだから、俺に任せてくれたらいいんだろ? こういうことも俺の仕事なんだからさ……。ってかさー」  そう和也は何か言おうとしたが、車椅子をうまく使っているのは、みんな足を怪我している人たちだ、と突っ込みたかった。しかし、望の場合、一度決めたら頑固だから、和也はため息をつきながらその様子を見守ることにした。 「いい! お前に頼むとろくなことにならないからな……」 「あのなぁ、まだ俺のこと信用してくれないわけ? それはいいんだけどさ……トイレに早く行かないとまずいんじゃねぇのか?」  和也は望が乗っている車椅子を動かし始め、病室を出たと同時に雄介に会う。 「望!」  そう言って笑顔で望の側に近寄ってくる雄介。 「大丈夫やったん?」 「まぁ、腕の方がヤバかったみたいだったけどな……あとは大丈夫だったから平気なんだけどさ」 「それなら良かったわぁ」  雄介はそう言うと和也に視線を合わせて、 「車椅子なんか使って、どこに行くつもりだったん?」 「ん? 望がトイレに行きたいって言うから、トイレに行くところだったんだけど……まぁ、雄介が来たんなら、雄介にその仕事任せた方がいいのかな? それに、雄介にいろいろ世話してもらった方が望はいいんだろうしさ」 「はぁー!? ちょ、ちょっと待てよ……誰がトイレに付き合ってくれって言った!?」  和也はその望の言葉にため息をつき、 「望はまだ患者さんの気持ちが分かってないわけ? 片手が使えないってことがどういうことか分かってねぇんだろ? まぁ、いい機会だから、望が患者さんの気持ちになってみるのもいいんじゃねぇの? 片手が使えないってのがどんな感じか分かると思うからさ」  いつもの和也なら、そこはふざけながら言うところなのかもしれないが、仕事として考えているのだろうか。そう、厳しい言葉で言ったようだ。 「とりあえず、雄介さ……望が本気で根を上げるまで手は出すんじゃねぇぞ」 「あ、ああ……おう!」  雄介は和也に何か言いたそうにしていたが、今の和也から出ているオーラみたいなものに圧倒されて、言い返せないような気がしたため、和也の言う通りに望のことを見守るだけにしたらしい。  すると、和也は雄介の耳元で内緒話を始める。

ともだちにシェアしよう!