960 / 1491
ー波乱ー159
「勿論……入院している患者さんの気持ちもそうなんだけどさぁ。望の親父さんが言ってたんだよな。望には素直な心を育てることができなかった……ってな。望ってそうだろ?」
「ま、確かに……そうだわぁ……せやから、機会があれば、望にその素直な心になれるようにとしようとしてるんやね」
「そういうことだ」
雄介は納得すると、望の方へと視線を移す。
だが、望の方は先ほどからあまり進んでいないようにも思える。
「アカンやんか……あんなんでトイレに間に合うんかいな? 望の場合って、相当我慢してから言ってると思うしな」
「だろうな……結構、切羽詰まったような感じで言ってたしな。ま、とりあえず今は望が声を上げるまでは俺たちは待機で……」
「そういう訳で望のこと、放置しとる訳なんやな」
「そういうこと……。別に意地悪なんかでやってる訳じゃねぇんだからな」
「分かっとる」
だが、しばらくすると望は雄介の方に視線を向け、真っ赤な顔で、
「もう……本当に我慢できねぇから……トイレに……」
「何?」
和也は、望が何を言いたいのか分かっているにも関わらず、そう聞き返す。
「だから、トイレに連れてって! って言ってるんだろうが……」
その言葉を聞いて和也はため息をつくと、雄介の方に視線を向けて、
「望にはこれが限界か?」
「せやな……」
「じゃあ、雄介が連れて行ってやれよ。俺は望の病室で待ってるからさ……」
「分かったわぁ……とりあえず、望のこと、トイレに連れてってやるな。それから、話を聞くし」
「ああ……」
雄介は和也の返事を聞くと、走って望の元へ向かい、車椅子を押してすぐにトイレへと向かう。
そしてトイレを済ませると、雄介は再び望の車椅子を押して病室へ戻ってくる。
「意外に早かったんだな……」
「なんやねんそれー、まさか、俺がトイレで望のこと抱くんかと思うてたんか?」
「まぁ、抱くまでとは考えてなかったけど……キスくらいはしてくるんだと思ってたんだけどな」
「あ、それ……めっちゃ忘れておったわぁ」
「そっちかよっ!」
そう和也は小さな声で突っ込むと、
「ま、いいや……とりあえず今は昨日のこと話すしさ」
「ああ……」
雄介は望のことを抱き上げ、ベッドの上に乗せ、自分は近くにあった椅子に腰を下ろす。
「昨日はさ……俺が最初にミスしたことがいけなかったんだよ。朝、行く時に水たまりに携帯を落としちまったからさ……それで電源も入らなくなっちまって、それで、まったく望と連絡ができなくなっちまったってことだったんだ」
ともだちにシェアしよう!