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ー波乱ー159

「勿論……入院している患者さんの気持ちもそうなんだけどさぁ。望の親父さんが言ってたんだよな。望には素直な心を育てることができなかった……ってな。望ってそうだろ?」 「ま、確かに……そうだわぁ……せやから、機会があれば、望にその素直な心になれるようにとしようとしてるんやね」 「そういうことだ」  雄介は納得すると、望の方へと視線を移す。  だが、望の方は先ほどからあまり進んでいないようにも思える。 「アカンやんか……あんなんでトイレに間に合うんかいな? 望の場合って、相当我慢してから言ってると思うしな」 「だろうな……結構、切羽詰まったような感じで言ってたしな。ま、とりあえず今は望が声を上げるまでは俺たちは待機で……」 「そういう訳で望のこと、放置しとる訳なんやな」 「そういうこと……。別に意地悪なんかでやってる訳じゃねぇんだからな」 「分かっとる」  だが、しばらくすると望は雄介の方に視線を向け、真っ赤な顔で、 「もう……本当に我慢できねぇから……トイレに……」 「何?」  和也は、望が何を言いたいのか分かっているにも関わらず、そう聞き返す。 「だから、トイレに連れてって! って言ってるんだろうが……」  その言葉を聞いて和也はため息をつくと、雄介の方に視線を向けて、 「望にはこれが限界か?」 「せやな……」 「じゃあ、雄介が連れて行ってやれよ。俺は望の病室で待ってるからさ……」 「分かったわぁ……とりあえず、望のこと、トイレに連れてってやるな。それから、話を聞くし」 「ああ……」  雄介は和也の返事を聞くと、走って望の元へ向かい、車椅子を押してすぐにトイレへと向かう。  そしてトイレを済ませると、雄介は再び望の車椅子を押して病室へ戻ってくる。 「意外に早かったんだな……」 「なんやねんそれー、まさか、俺がトイレで望のこと抱くんかと思うてたんか?」 「まぁ、抱くまでとは考えてなかったけど……キスくらいはしてくるんだと思ってたんだけどな」 「あ、それ……めっちゃ忘れておったわぁ」 「そっちかよっ!」  そう和也は小さな声で突っ込むと、 「ま、いいや……とりあえず今は昨日のこと話すしさ」 「ああ……」  雄介は望のことを抱き上げ、ベッドの上に乗せ、自分は近くにあった椅子に腰を下ろす。 「昨日はさ……俺が最初にミスしたことがいけなかったんだよ。朝、行く時に水たまりに携帯を落としちまったからさ……それで電源も入らなくなっちまって、それで、まったく望と連絡ができなくなっちまったってことだったんだ」

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